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いばらの虜囚 2
周りの男達は決してガラガいいとは言えず、この高級クラブに足を踏み入れることができるのが不思議な風体をしていた。
直江が把握している限り、そんな男達とセキの繋がりなんてない。
いや、あってはならない。
そんなことがあったなら、自分はとっくに大神に叱られているはずだ と。
直江はざわりと胸をよぎった嫌な予感にせっつかれて、急いで大神専用の携帯電話を取り出す。
緊急時以外はかけるな ときつく言われていたが、これは十分緊急事態だろうと信じて疑わなかった。
「 電話を切れ」
こつ と足音が真後ろで響くと同時に携帯電話を覆うように手が添えられる。
とっさのことだったが、大神にはそれが誰の手なのか、誰の声なのか一瞬で理解していた。
「承知しました」
返事をすると同時に携帯電話の電源を落とし、スーツの中へとしまう。
そして久しぶりに見る大神の顔をそろりと見上げて……止められない震えと共に急いで顔を伏せる。
視界から締め出しても感じるほどの圧倒的な存在感と刺々しい雰囲気に、直江は頭の中が真っ白になってしまった。
大神が帰ってきたらいきなり大神が手がけている面の会社を任せて連絡が途絶えた理由を問いたださなければ と、ずっと思っていたはずだった。
けれど……
「何かあったのか」
普段よりも掠れたように聞こえる大神の声に、直江は疲れが滲んでいると感じ取る。
大神の傍について数年、直江は常に全神経を尖らせて表情の乏しい大神の感情の機微を読み取っていた。
だからこそ、今目の前にいる体から溢れ出しそうなマグマを感じ取ってしまい……
カタカタと情けなく震え出した手を必死に押さえつけ、背中へと隠す。
「先ほど、セキを見かけました。周りの人間の全員の素性は分かりませんが、真っ当な人間とは思えませんでした。五分頂ければそいつらのすべてを洗い出します」
もう一つの携帯電話を取り出そうとした直江を、大神は手を挙げて制する。
「必要ない」
「大神さ っ」
さっと顔を向け、直江は大神をまじまじと見て目を見開いた。
いつも直江は大神の服装すべてに細心の注意を払っていた。
何せ体格が体格だ、何もせずにそこに立っているだけで威圧感で子供が逃げ出し新入社員は辞表を書き始める。
だからそんな大神をできるだけ柔和に上品に見えるように心を砕いて用意していた。けれど、大神が着ているもの、身につけているものは重苦しい漆黒の厚地のスーツに、好感の抱きようのない無骨なネクタイを締めて、攻撃的な光を放つ革靴を履いている。
少しでも大神の雰囲気を陰から引っ張り出そうとしていた直江の努力は、かけらも残っていない姿だった。
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