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いばらの虜囚 4
若衆が駆け寄り、車から降りた大神に二言三言と言葉を伝える。
返事としてゆっくりと頷いてから顔を上げ……その瞬間に辺りには弦を引き絞るような緊張感が生まれた。
先ほどまで「父親に似ていない」「畜生が産んだ子」と告げていた唇が糊付けされたようにピッタリと閉じられ、それに殉ずるように顔色が悪くなっていく。
遠くに喧騒が聞こえているはずなのに、今この場では大神の革靴が立てるコツリという音が何よりも大きい。
「お久しぶりでございます、柏の親父さん」
針の落ちる音ですら大きく聞こえそうなその場に、大神の低い声が響いた。
柏はさっと左右を見回し、今この場にいる連中の中で自分の一番位が高いことを確認すると、自分へ最初に声をかけた大神に対して胸を張るようにして「ふん」と一息吐く。
「ああ、そうやな。顔も見せにこんかったし、久しぶりすぎてわからんのか思てたわ」
一瞥すらせず返された言葉に、大神は顔色ひとつ変えないままだった。
硬質な表情は見ようによっては微笑んでいるような形で固まり、何者にも崩せないような雰囲気を醸し出す。
「申し訳ありません、相も変わらず駆け回らないといけないもので」
「何言うとんのや。ずいぶんと手広く……いろいろな方面に手ぇ出しとるらしいな」
いやらしく潜められた後半の言葉に大神は動じないまま、笑みを深める代わりにわずかに頭を低くする。
一見従順な様子に見せかけた返答に、柏は再びふんと鼻で笑ってみせた。
それでなくともだだっ広い大広間の襖を取り払って空間を確保したそこに膳が並べられ、若衆が次々と客達を案内していく。
次第に席が埋まっていくのを眺めながら、大神は誰にも気づかれないように歯を食いしばった。
「はぁ、これはまた、慧はずいぶんと倹約家とみえる」
背後から聞こえたしわがれた声に、大神は振り返ってからゆっくりと頭を下げる。
視線を動かす一瞬で見えた老人は随分と小柄で、大神の胸にも頭が届かないのではと思わせるほどだ。
けれど、ねめつけるような視線はこの場にいる誰よりも鋭い。
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