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いばらの虜囚 6

「慧っ! わしらが赤落ちしている間にお前はっ!」  振り上げられ、振り下ろされ、その苛烈さにさすがに周りもざわりとした気配を見せ始める。  大神を冷ややかに見ていた客達でさえ、繰り返される打撃の音に動きを止めた。 「お前はわしらをムショに突っ込んでおいてっ! 誠意をみせて落とし前をつけんかい!」  繰り返す動きに赤城の肩が大きく弾む。  やがて赤城はまとまらなくなった呼吸に押されるように顔を上げ……打ち据えられているはずなのに、揺らぎもしていない大神を見上げた。  ひゅう と赤城の喉に隙間風のような音がしたのは、老いただけが理由ではなかった。  従順に頭を垂れている目の前の存在は決して自分に逆らってはいない。  けれど赤城は確かに屈してはいない獣の気配を感じ取っていた。 「お  お、ま   」  その場のすべての視線が自分に集中していることを思い出し、赤城は自分自身を鼓舞するようにもう一度杖を振り上げようとした。 「  ────そこまでで」  割り込んだ声は低く硬く、そしてよく響く。  軽くないがよく響くために広間にいる全員がその声を耳にした。 「兄貴、子の躾は親の仕事ですよ」  その声が少しからかうような含みを持たせて、大神の後ろから赤城に向けてかけられる。  赤城は小さく舌打ちし、杖を下ろして……そして顔を上げた瞬間に先ほどまでの激情をすべて消したぽかんとした表情をした。  目の前に並ぶ大男二人の瓜二つぶりに、赤城は落ち着かなげに杖を床に擦り付けて鳴らす。 「悟、元気そうだな」 「ええ、随分と骨休めしましたから」  そう言うと大神の父である悟はにこやかに笑いながら赤城の肩に手を置いた。 「休めるものか」  ふん と鼻で笑いながら……赤城はさっと大神と悟の顔を気づかれないように見比べる。  ────どういうことだ?  そう胸の内が零れ出るように、赤城の表情は取り繕えていなかった。  けれど、悟はそれを意に介さないまま赤城をぐいぐいと上座へと連れていく。 「おいおい。わしは相談役だぞ? こんな上に座らすな。端でええ、端で」 「だから端に連れていっているでしょう? ほら、こっちに座ってください」  和やかに話しながら悟が赤城を連れて行った先は一番上座に近い端の席だ。  本来ならば№2の若頭や理事達が座るために用意されている場所の一角だった。   「あはは。こんないい席に連れてこられて、何か下心でもあるんか?」  和気藹々と言った様子の二人からは、先程までの暴力的な雰囲気は欠片もなかった。 「大神さん! 大丈夫ですか⁉」 「……ああ、問題ない。宴の準備を進めろ」

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