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いばらの虜囚 8

 大神も何か感じるところがあるだろうに、一度深く頭を下げてから酒を受け取ると悟の傍へいき再び頭を下げる。 「失礼致します」  盃に注がれていく酒を見て、周りが空気を緩ませようとした瞬間だった。  素早く伸ばされた手が酒瓶の首を掴み、周りが反応するよりも早くそれを大神に向かって振り下す。  ご と鈍い音が鼓膜を振るわせ、緩みかけていた空気を一気に引き締め直した。  重い一撃を頭に受け、さすがの大神もぐらりとふらついて青々とした畳に手をつく。その手を伝って、酒精の強い透明な液体が流れて広がる。 「  っ」 「こんなもので、お前は慰めになると思うのか?」  ばちゃばちゃと忙しない音を立てて酒が大神の頭に注がれ続け、山のように見える体を満遍なく濡らしていく。 「……いえ」 「あの年、お前がしたことはそんなものか?」 「……いえ」  重々しく、けれど同じ言葉を繰り返す大神に悟は苛立ちを隠さなかった。  先ほどまでの表情を鬼のように変え、再び酒瓶を振り下ろす。 「 ――――っ!」  二撃目も避けることはしないまま受け止め、大神は深く眉間に皺を刻むだけで堪えてみせた。  整えてあった当初は殴られた衝撃と酒をかけられたことで乱れ、額は割れてぱっくりと裂けて血を溢れさせている。  酒に流されて血が顔を濡らし、身体中を濡らして…… 「ケジメに関しましては、今この場でつけることができるほど軽いものとは思ってはおりません。皆様の生活、これからすべてのことに対して   っ」  空になった酒瓶が投げつけられ、大神の言葉が途切れた。 「当然のことをべらべら喋るのが礼儀か?」 「申し訳ございません」  大神は畳に頭をつけて深く土下座をする。  何事もそつなくこなし、感情の起伏の薄いこの男が人に頭を下げる瞬間を誰も見たことがなかった。  若衆は悔しそうに顔を歪めながら視線を逸らし、客としてもてなされている連中は不憫そうな顔をしつつも隠しきれない喜悦に口元を歪めている。  この場に客として招かれた客人……かつて神鬼組の組員だと名乗りを挙げていた人間たちだった。  新世代反社会解体法にて存在すらなかったことにされたヤクザ達は今、一斉検挙で刑務所暮らしを終えた後は肩書きらしい肩書きもないままに昔の栄光を語り合いながらその日をだらりと生きる日々を送っている。  肩で風を切って歩くことも事務所を構えることも、ましてやどこに所属していると漏らすことすらできない。  日々溜まる鬱々とした感情をぶつけようにも、彼らのような経歴を持つ人間は下手をすればそのまま再び刑務所の中へと放り込まれてしまいになる。

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