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いばらの虜囚 10

 傷に酒が染みてなんとも言えない痺れるような痛みを訴える額を押さえていると、また違う若衆が駆け寄ってきて警察官がやってきたと告げる。 「これはなんの集まりかと説明を求めていて……」 「屋敷の改築祝いだと告げろ。以前から改修していることは届出をしているからそっちを確認させろ」  そもそも元がつくとはいえヤクザの組屋敷だった家に、風体のよくない人間がこれだけ集まるだけで本来なら取り締まり対象だった。  元ヤクザの出所を祝うことすら自由にできないのが現状だ。 「もしそれでもごねるなら騒ぎになる前に言いにこい」 「はい! わかりました」  大神はアルコールの染みる目を細めながら、必要ならばあいつに一報入れておくべきか と表情には一切出さずに、懐に入れてある携帯電話に手を伸ばす。  その協力者がいなければ、今日この集まりは成立しなかった。  広間の方に目を遣ると、中からきゃあきゃあとはしゃぐ甲高い声とそれを追いかけるような低い濁声が響く。  もっと大荒れなるだろうと思っていただけに、今の悟の様子は予想外だった。  そもそも予定されていた出所時間に現れなかった段階で、何か仕掛けてきてくるのだろうと構えていただけに、大神は妙な胸騒ぎを感じて唇を引き締める。 「慧、酌のひとつもしてして回ったらどうだ?」 「はい」  赤城に入り口に用意されている酒を指差しながら言われ、大神は従順に頷いてそれを手に取った。  さすがに先ほどと同じようなくだらない真似はしないだろうと、順繰りに膝をついて酒を注いでいく。  大神と同じ顔が笑いながらもその昏い眼差しで広間を眺めていることに気づき、大神の胸の中にあった爆弾のような予感がミシリと音を立てた。  その感覚を感じると同時に障子が壊れるのではという勢いで弾かれて、突き飛ばされて何かが投げ込まれ…… 「セキ」  バタンバタンと水揚げされたマグロのように体を撥ねさせ、怯えと向こうっ気を滲ませたセキの大きな瞳が大神を見つけて更に見開かれる。  人間が突然投げ込まれる異常事態を受けて、盛り上がり始めていた広間は一瞬にして静まり返った。  それを追いかけるように飛び込んできたしずるを見て、大神は思わず眉間に皺を寄せる。  明らかに無理やり連れてこられたセキとそれを追いかけて来て殴られたしずるが一斉に大神を見て、状況を尋ねるような眼差しになった。   「お ぉがみ、さ   」  頼りとしていた大神が目の前に見え、セキはあからさまに安堵した表情になっている。  けれどそれを見た大神は何かをセキに返す前に、さっと悟と振り返った。 「時間が掛かると醒めるだろう? ちゃんと連れてきておいたぞ?」  その一言が、セキをこの場に連れて来たのが誰の命令だったのかを教える。

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