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いばらの虜囚 11

 大神がセキを保護して以降、よほどのことがない限り大神はセキを傍に起き続けた。  しずるに言わせるとベッタリとマーキングまでして、自分のものだと宣言しているように だ。  そんなふうに扱っているΩを、悟がどうにもしないとは思わなかった。だから、大神は事前にセキには研究所にこもっておくように言っておいたし、セキにもボディガードをつけていたはずだった。  本人にも安易に外に出るなと言い含めておいたはずだし、瀬能にもくれぐれも と念入りに頼んでもいた。  なのに……   「セキ   どうして来た?」   「あ……わか わかんないです、突然連れてこられて、オレも何が何だか   」  セキのほっそりとしていた顔は、殴られたせいで大きく歪みが出て唇からは血も滲んでいる。  大神はそれを問いただしたい表情を作ったけれど、しずるを捕まえにきた若衆達の騒ぎに言葉を飲み込むしかできない。  「連れて行け」と短く指示を出すとそれに反応するようにしずるが暴れ出す。  この場にいるのは荒事を良しとして生きてきたヤクザの抜け殻だ。  同じ組の人間でもない奴に祝いの席でこんな騒動を起こされて……その目には滲むような殺気が漂い始めている。  かろうじて彼らを押し留めているのは先ほど警察官が訪れたからだ、それがなければしずるは逆らった瞬間に袋叩きになっていただろう。  二人の若者が懸命に抵抗する姿を、周りの老獪な人間達が冷ややかに眺める。  これがどう言う状況なのか、どちらについてどのように動けばこの場を支配する上の人間の覚えをよくできるのか。  タールのようにねっとりとして絡みつく視線を感じたのか、セキはさっと自分の身を庇うように胸の前で拳を作ると、必死に辺りを見回して少しでも情報を得ようとする。  誰がどこにいて、どの場所が手薄で、どのタイミングを見計らえばこの場所から逃げ出すことができるのか……  それは、大神と出会う前から身につけていた動きだった。  どこまで行っても虐げられる存在である自分を守るための本能は、必死に辺りを見回して突破口を見つけようとする。 「  ――――わっ」  大神に説明をしてもらおうとしていたセキが短い悲鳴をあげた。  細い体が、下座に座っていた男の一人に抱え上げられて……爪先が空を蹴っている。  はっきりとやめろ と言う前に席を抱え上げた男……真田の手が薄いシャツの中に無遠慮に入り込む。  それは偶然などではなく、明らかに辱める意図を持っての手の動きだった。  広間の中は潜められた笑いを漏らす客達と、いきなり始まった行為に戸惑うホステス達に二分される。  真っ青になたしずるが殴られて上手く動かない体を引き摺りながら止めようとするも、大神はそれを口を引き結んで見ているだけだ。

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