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いばらの虜囚 12
「や、やっ! ちょ、さ、わ。っっ! 触んなっ!」
真田のいやらしい手の動きに返すにはあまりにも色気のない言葉に、固唾を飲んで見守っていた周りの客からは落胆の雰囲気が滲み出る。
そこに来て初めて、大神はゆっくりと口を開いた。
「この通り、まだ礼儀作法も教え込んでいない野猿です、親父にはもっと良いオメガや女をご用意してあります」
「自分の番を差し出すのはさすがのお前も気が引けるか?」
広間中の視線がセキの首元に集まる気配がした。
あまりにも無骨で実用本意のネックガードを皆の目が舐めるように見る。
その下に、歯形があるのかないのか。
このΩが大神のものであるのかそうでないのか。
その場にいる皆が知りたい事柄だった。
「ベータに番はできません」
はっきりと告げられた言葉はセキが大神のものではないと認めるもので……セキはバッサリと切り捨てる言葉に抵抗していた腕の力を緩めてしまった。
こんな状況で、誰の庇護も受けていないのだと宣言されてしまえば、その先に待つのが何か分かりきっている。
「お前のものじゃあないのなら、そのオメガは皆のものだな? 真田、そのオメガをこっちに連れて来い」
献上だ と誰もが思う。
いきなり広間に放り込まれたその小さなΩは、これからこの空間にいる一番の人間の元へと捧げられるのだ と。
真田はヘラリとした笑顔を見せた後、セキの頬をべろりとひと舐めしてから広間を横切っていく。
突然顔を舐められて……セキは驚きすぎたのか固まって頬を押さえたまま、抵抗らしい抵抗をしていない。
大神に縋るような目を向け、何か助けの手を差し伸べてくれるんじゃないかと一縷の望みを抱いて……けれど揺らぎもしない大神の瞳は口から出る言葉よりも雄弁だった。
この場にいる頂点に君臨する父親に逆らう気は無いのだ と。
「……」
「……」
火花が散る様な熱のこもった視線ではなかった。
お互いがぞっと内蔵まで冷えるような硬質な視線で見遣る背後でしずるが懸命にセキを庇おうとしたが、結局は引きずられるようにして放り出されてしまう。
静かになった広間に一人放り出され、セキは気づけは震え出していた。
「お 大神、さん、……オレ…………」
「親父の酌を」
「へ?」
セキはまだはっきりと事態が飲み込めていない困惑の表情のまま、大神と上座に座る大神そっくりな男を交互に見る。
口に出して問うこともできたのだろうが、何かを読み取った表情をしてセキはギュッと唇を引き結んだ。
よたつき、戸惑いながらも悟の傍に行くと、酒の瓶を手に取った。
隠しきれない震えで冷たい酒瓶が震え、酒を注ごうと盃に近づけるとカタカタと小さな音を立てる。
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