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いばらの虜囚 13

 大神のものとよく似た、それでいてまったく違う温度を持った瞳がひたりとセキを真正面から見た途端、その震えが最大限に達してパシャリと器から溢れかえった。  膳の上に強い酒精の香りと透明な液体が飛び散る。 「あっ……ごめ   っ」  まともな謝罪すら許されない。  唐突に振り下ろされた平手を、セキは避けることもできないまま真正面から受けることとなった。  大神と変わらない屈強な体躯から放たれたそれは、対して力のこもっていないものだとしても、華奢なセキが受け止めるには重すぎる一撃だ。  吹き飛ぶように畳に倒れ込んだセキは、声を出せないまま衝撃で焦点の合わない目を瞬かせた。  ぱた と張り替えられたばかりの青い畳に金臭い液体が落ちてあっと言う間に染み込む。 「ここまで躾がなって無いのか?」  他の客についていたΩがカタン と小さな音を立てたのを最後に、広間は再び静まり返る。  ほんのわずかなミスをすれば、先ほど小さなΩに容赦なく振り下ろされた手が自分にも降りかかるかもしれない と、さっと視線が絡まり合った。 「何をしている」 「え?」 「さっさと拭け」  セキは呆然と切れた唇を拭ってタオルか何かないかと視線を走らせる。  ハンカチを持つ習慣があればそれで拭くこともできたのだろうが、あいにくとセキに持ち合わせはなかった。  大神を含め誰も助けようとはせず、皆がセキはどうするかを待つ。 「も……ぅしわけ、ございません でした」  悟の雰囲気的にタオルを借りに行く時間をくれそうにはなかった、セキはグッと唇を引き締めながら赤いパーカーの裾を引っ張ってそれで溢れた酒を拭いていく。  カチャカチャと皿が立てるか細い音が止まり、拭き終わったセキはおずおずと悟を見上げる。 「それで? 汚れた服のままそこにいる気か? ここは祝いの席だぞ?」  ふぅ とため息まじりに脇息から体勢を戻し、悟は気怠そうに真田の方へ首を傾げた。 「汚れたままはふさわしくない、そう思うだろう?」 「そうですね、めでたい席に汚れ物なんてよくないですね」  真田はそう答えるとセキのパーカーを力任せに引っ張り上げる。  華奢な体はそれに引き上げられるように引き倒されて、あっさりと服の所有権をあけ渡してしまう。  中に着ていた薄いシャツに縋り付くように自分を抱きしめたセキを見て、真田がおかしそうに声を上げた。 「大変だ! 中まで濡れてしまっているじゃないか」 「え……そんなこと……」  さっと見渡しても白いシャツのどこにも濡れた痕なんて見当たらない。

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