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いばらの虜囚 14
酒は上着が吸ってしまっていたし、その上着もシャツが汚れる前に真田に脱がされてしまったから他に汚れはなかった。けれど、真田は大袈裟な身振りでセキの服の裾を指さして「汚れている!」と騒ぎ立てる。
「 っ、着替えてきますっ着替えてきますからっ!」
真田が指すシャツの裾を握り締め、突っ立ったままの大神の方へと駆け出そうとして……
「ゃ っ」
太い腕がセキを捕まえ、乱暴に引きずり戻す。
縋るように大神に伸ばされた手が虚しく空を切る。
「わざわざ着替えなくとも、上着と同じように脱げばいいじゃないか」
「ぬ 脱いだら 」
この下には何も身につけていない。
真田の言いがかりのままにこのシャツを脱いでしまったらセキは半裸になってしまう。
「脱げない ですっダメです!」
「駄目? 慧、躾どころか口の利き方も教えてないのか?」
悟に言われ、大神の硬質な目がやっとセキに向けられる。
大きな獣のようでいて、それでもセキを傷つけることのなかった体がのそりとその前に立ち、しっかりと握られているシャツを引き剥がす。
「大神さん⁉︎ や、やめっ オレっ……さ、さすがに……」
セキは言葉を選ぶ様子をみせる。
「嫌」も「無理」も否定の言葉は不興を買うだろうと「恥ずかしいです」となんとか絞り出した答えを告げた。
「……」
いつもならば呆れ返るような声で必ず返事をする大神が、唇を引き結んだまま膂力に任せてシャツを引っ張る。
伸び切ったシャツがビッと悲鳴のような音を立てたのを聞いて、セキの顔色がどんどんと青くなっていく。
「お、大神さん? オレ……あの、このままじゃ、裸になっちゃう。知ってますよね? オレの体には…… 」
続く言葉も聞かず、大神はそのままセキの体からシャツを引き剥がしてしまう。
晒された上半身が広間の灯りに照らされて、白磁に花弁の散る肌を曝け出した。
昨晩、何があったか隠すことのできない証拠を背負って、セキは真っ赤になりながら慌ててその場にうずくまる。
「あ、あはは……お、大神さ……さすがに……ちょっと、これは 」
泣きそうになったのを堪えるためか、ギュッと顔を強くしかめてから息を深く吸い込む。
それでも堪えきれなかったのか、目じりに小さな雫を滲ませる。
それは、泣くよりも痛々しい姿だった。
「……セキ」
自身の手で剥いたというのに、大神は目の前のことに戸惑っているように小さく名を呼んだ。
小さな呼び声がセキに希望を与えたのか、セキはぱっと弾けるように笑顔で顔をあげた。
わずかなやり取りだったがそれでだけで二人の関係を教えるには十分で、広間にいる人々は大神がこのままセキを連れ去るだろうと思っていた。
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