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いばらの虜囚 15

   「慧。茶番はもう飽きた」  つまらなさそうに悟は手元から大神へと視線を移す。  冷ややかに興醒めしたと言いたげな瞳は、身内である一人息子に向けるにはあまりにも冷酷なものだ。 「お前は俺の出所を祝いたいのか? それとも   」  緩くあごを上げつつ尋ねられた言葉に大神はグッと顎に力を入れる。 「ここは親父の祝いの場だ、わかるな?」 「わ わかり……ます」 「では自分が何をするべきかも、わかるな?」 「お 大神さんの、お父さんを……楽しませ る?」  大神に尋ねられ、セキは震えながら必死に考えて言葉を紡ぐ。  自分が何をするべきなのか、何をもってもてなせと言っているのかを考えて答えを出して……唇を引き結んで、セキはそれ以上何も言わなかった。  恥ずかしそうに隠していた体から手を退けて、ぎこちない笑みを浮かべる。 「わかりました。それが大神さんの望むことなら」  はっきりと告げると、セキは悟の隣へと戻って酒瓶を持ち上げた。  足元に崩れ落ちたしずるを眺めながら大神は冷ややかな表情のままだし、瀬能は悟の眼光の前に怯える素振りも見せない。  一般人だろうしずるが起こした騒動に、周りは騒然としたままだ。 「申し訳ありません、すぐに片付けさせます」  人を殴り倒した様子を微塵も見せず、大神はそう言うと辺りに深々と頭を下げてみせる。  すぐに若衆が入ってきて血の跡や気絶しているしずるを引き摺り出し、新しい膳を用意して……それらを眺めながら、瀬能は不機嫌そうに顔を顰めたままの悟の傍に寄った。 「んで、いつ検査に来る?」 「なんの話だ」 「調子悪そうだからさ。ついでに見舞いとかどうだい?」  血まみれのしずるを見ても動じなかった悟の視線がほんのわずかに揺れる。  それは傍にいたセキですら気づかないほど小さなものだったけれど、確かにみせた反応だった。 「誰の見舞いに行けと言うんだ」  皮肉げに歪んだ口元と手の中でバキリと盃が砕けて酒が飛び散った。  悟自身が反応するよりも先に、セキが飛び上がって慌てて脱ぎ捨てた服の裾でそれを拭いとる。 「祝いにきたわけじゃあないなら失せろ」  腹の底まで冷えさせるような瞳に、瀬能は揶揄うような笑みを浮かべて肩をすくめてみせた。  理解できていないのかそれとも悟を前にそれだけの態度を取れるなんらかの自信があるのか……  周りの人間は互いを見て瀬能についての情報を探ろうとするが、昔から悟の知り合いで組で何かがあった時に怪我人を運び込める医者だということ以外、詳しい情報を持つものはいなかった。 「そうだね、祝いたいわけじゃないからそろそろお暇しようかな」  庭に放り出された血に塗れたボロ雑巾のようなしずるを見遣ってから、瀬能は挨拶もないままに広間を出ていく。

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