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いばらの虜囚 16
「この騒動はどう落とし前をつけるつもりだ? まさかこのまま帰すわけじゃあないだろう?」
「あの子供は、商品です」
感情のない声は考えを読むのを困難にさせる。
「商品?」
「血統の良いアルファの精子は高値で売れるので」
「だから? 金になるから見逃せ と?」
あまりにも硬い視線がぶつかり合ったせいか、パチパチと音がしそうなほどだった。
「お前、瀬能と組んでやっていることや周りの人間のことを、俺が知らないと思っていないか?」
そこで初めて、大神の瞳に揺らぎが表れる。
悟の言葉に明らかに動揺した様子を見せ、顎に力が入ったのが周りからでもわかった。
「俺が塀の向こうでのんびり寛いでいるだけだと思っていたのか?」
「いえ」
「さっきの小僧に何をさせているかも……すべてすべて、俺に筒抜けだ」
「……」
両脇に垂らされていた拳にゆっくりと力が入っていく。
それは密かな行動だったけれど言葉よりも雄弁だった。
「わっ」
突然上がったセキの声に、大神の瞳孔が激しい動きをみせる。
悟に抱き寄せられて膝の上に乗せられたセキは怯えの表情を見せながら大神と悟の様子を交互に窺う。
この後に何が起こるのか身体中の神経を鋭くさせ、息を詰めていた。
「このオメガをどれだけ可愛がっているかも、な」
「……」
するするとざらついた手がセキの肌の上を滑り、足の間を這い上がっていく。
そうすると一度綻いでしまったから、大神の感情は大きく揺れて目に見える形で現れる。
「は ははは!」
悟は心底おかしそうに笑うと、隣の膳から盃を取り上げてセキに酒を注げと指示を出した。
途中アクシデントはあったが死人が出ない程度のことでは列席者達は動じない。
しずるの起こした事件でさえ、酒を飲んで騒げばすでに過去の話になってしまっていた。
「 ぁ 」
悟の手が戯れにセキの肌の上を滑っていく。
大神のつけたキスマークを辿るように指を動かし、数を数えるようにとんとんとリズムを刻む。
執拗につけられたキスマークの位置はそのままセキの性感帯だ、大神によって開発されて特に敏感なそこを辿られて……セキは噛み殺しきれなかった声を漏らしてしまった。
あの後、結局ズボンも下着も剥がれて……見かねたΩがお座敷を汚してしまうから と理由をこじつけてくれて、なんとか一枚のショールを腰に巻くことが許された状態だった。
舐めるような数多の視線が淫らな痕を残す肌の上を彷徨うからか、宴もたけなわとなった今、広間の中の空気はどこかねっとりとした淫靡なものを含んでいる。
末席にいる客達はあてがわれた女やΩで満足そうにしていたが、上座の幾人かは悟の隣に座るセキにチラリチラリと視線を送っていた。
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