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いばらの虜囚 17
セキは確かに悟にあてがわれてはいたが、この席にいて悟のΩ嫌いを知らないものはいない。
大神への嫌がらせで酌をさせてはいるもののその後の供にまではさせないだろう と、全員が思っていた。
それならば、あの大神が可愛がっているΩを自由に手篭める機会が自分達に回ってくる……
客達の考えは脳みその中を覗き込まなくとも明白だった。
自分達を刑務所に送り込み、臭い飯を何年も食わせた挙句一人だけ外でのうのうとしている大神へ、わずかでも嫌がらせをしたい。
もちろん、今の自分達の生活を大神が支えているのは十二分に理解していた。
長い刑務所暮らし、出てくれば組は消え、ヤクザという存在すらなかった世界になっていた。
今までの手練手管が通用せず、監視も厳しい。そんな中で以前と変わりなく幅を利かせ羽振りよく振る舞えるのは、大神が方々に伝手を作り金を用立ててくれているからだ。
だからと言って恨みは恨みで消えることはない。
だが正面切って文句を言える立場にないのも事実だ。
そこで、大神が可愛がっていると噂のΩでうさを晴らせばいいのだと、客人達は結論を出した。
大神を直接咎めるよりはスッキリとはしないだろうが、それでも憎からず想うΩを玩具にされて大神の気分的には面白いはずがない。
単発で手を出せば不興も買おうが、何せ今そのΩを辱めているのは父親である悟だ。
便乗すれば大神も文句は言えないだろう。
自分のΩを上に言われたからと差し出したのは大神なのだから……
ヤクザがなくなって久しくはあったけれど、親には逆らわないという不文律は廃れてはいないようだった。
柏に率先して挨拶をしに行ったこと、赤城の殴打に頭を下げ続けたこと、悟の暴力にも従順にしてみせたところから、客達は大神に対して世間で失った自分達のヤクザとしての誇りを取り戻しつつあった。
まだ、かつて自分達が栄華を極めていた世界が残っていたのだ と。
この場にいるすべての人間がそうだったわけではなかったけれど、小さなΩを食い散らかすには十分な人数だ。
「はは。ずいぶん飲んだな」
からん と盃を膳の上に落とす悟だったが、その表情にはかけらも酔いは見られない。
長い勤めに入る前と同様の泰然とした様子に、周りにいたかつての組の幹部達の目に光が宿る。
以前と何も変わらない。
何も変わらないのだ と。
新しい法律が施行され何年も世間と隔離されていた自分達は、今更何かすることもできずに人生を終えるのだと、半ば諦めていたのに。
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