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いばらの虜囚 18

「当座は英気を養うべきだ、お互いずいぶんと禁欲的に過ごしたからな」  そう言うと悟はゆっくりと立ち上がる。  大神と同じ上背のある体が動き出すと、周りの視線を一気に集めるような存在感があった。  自然とセキも見上げて……悟が退出する雰囲気にほっと表情を和らげる。  顔を巡らせて大神の視線と視線を絡ませ合い、小さく浮壁た笑みはこの宴が終わって解放されることへの安堵が滲んでいた。 「 ――――さぁ、こい」  一瞬時が止まったかのようにセキと大神が視線を絡ませあったまま凍りついた。  父親が何を言ったのか……大神はそれを確認するのが恐ろしいように、ゆっくりと悟の方へと顔を向ける。  自分と瓜二つの顔と向かい合い、表情の取り繕えなくなった大神はどこか滑稽だ。 「それは っそいつは……」 「誰の番でもないと言ったのはお前だったな?」 「ですが……宴席はもう終わりました」  明らかに表情を変えてセキの方へ寄ろうとする大神を、悟の側近達が邪魔をする。 「まぁまぁ坊ちゃん、組長もどうやらあの子が気に入ったようだし。仕込んだオメガが組長に気に入られるなんて光栄じゃないか? な?」  そうすれば上の覚えもよくなって、出世もできるというものだ…………ただし、昔の話だ。 「そいつは、保護しているオメガですから  」 「だがここはお前のでガバガバだぞ? 保護しているオメガに手を出すのはいいのか? お前がいいなら俺だっていいだろう?」 「それはっ」 「第一、お前に意見できるだけの立場はあるのか?」  悟は面倒そうに首を傾げ、肩の凝りをほぐすように左右に振った。 「留守を任せていたササキならともかく、お前はせいぜい若衆の世話係だろう? そんな人間が、この俺に意見できるとでも?」  悟の言い分は当然のことだった…………数年前まで。  上に請われれば何でも差し出すのが下のものの役目だろう…………数年前では。  それは古臭く、法によって叩き潰されて今はない因果の掟……だったはず。  けれど悟はセキの腰から手を離す気配を見せないまま、大神に先を促すように「ん?」と声をかけた。 「そ……いつには、番を見つけてやらないといけないんです」 「ではこれをはずせ。ここにいる全員で噛めば誰かは当たるだろう」  悟の朗々と響く発言に、周りから嘲笑が起こる。 「それはっ」 「それとも、この首輪の下は、もうすでにお前の歯形がついている とか?」  太い指が引っ掻くようにセキの細い首にはまっているネックガードを引っ張った。  何気ない動作なのに、セキの体はそれに引っ張られてフラフラと不安定に揺れる。 「……頸を噛めるのはアルファだけです」  食いしばる歯の間から漏らすように告げると、悟はさらにおかしそうに大袈裟に笑った。

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