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いばらの虜囚 19

「相性が良ければ番えるかもしれんぞ? 試してみなかったのか? あー……番ってしまったら、お前のバース性がわかってしまうからそんなことできんよなぁ?」 「私はベータですよ」  間髪入れずに返された言葉は事前に用意されていたかのようだ。  その様子が、嘘をついているんじゃあ……と周りの人間に疑惑を植え付けていく。  けれど、それと同時に疑いようもなくそっくりな親子を見比べて、つまらない噂話だったのか と口を閉ざす。 「どちらにせよ。コレに歯形がないなら皆のものだと言ったな?」 「…………」  悟はセキの意志を確認することなく、乱暴に広間の出口に向かう。 「わっ  」  突然歩き出されて、引きずられるような体勢になったセキは小さな悲鳴を溢した。 「セキっ!」  今まで聞いたことがないような感情を荒げた声に辺りがしんと静まり返る。  その声だけで、大神がセキのことをどう思っているか暴露するには十分すぎるほどだった。 「っ……お、大神さんっ! オレっ耐えれますっ大丈夫……っ」  周りがはっとするほどはっきりとした声でセキは告げ、無理やり連れて行かれながら大神に向かってにっこりと笑って見せる。 「大丈夫です! ネックガードもありますから!」  ね! と念を押すようににかりと歯を見せて笑うと、セキは廊下へと姿を消していった。  肌寒い と大神は感じ、外廊下から見える月を見上げる。  少し前に満月は終わって、今はどんどんと痩せ細っていく姿が空に浮かぶばかりだ。  闇に身を食い散らかされた姿は周りの星々に爪弾きにされているように見えて、大神はわずかに目を細めた。  暗い夜空を映す瞳は昏く虚ろで光を弾かない。  感情を映さない硬質な瞳が鈍い音を聞いてわずかに揺れた。  追いかけて届いてくる悲鳴と小さな泣き声、それを覆い隠すように響く殴打音。  耳が音を拾うたびに痙攣するようにピクリと震えて、歯を食いしばる顎に血管が浮き立つ。  殴り飛ばされ、酷く壁に叩きつけられ、罵倒され、踏みつけられ……人としての尊厳をこそぎ落とす音が幾ら聞こえても、大神はそこに立ったまま微動だにしなかった。  長く続いた人の打たれる音が途切れ、一際大きな怒鳴り声が夜明け前の最も暗い影の中に響き渡り……耳が痛くなるほどの静寂が訪れる。 「   ぉ、が  」  掠れ声は、発情期が終わった際のそれとよく似ていた。  大神は一瞬、発情期でくたくたになりながらも満足そうに笑うセキの顔を思い出しながら振り返り、噛み締めすぎて血の滲んだ唇を真っ直ぐに引き結んだ。  ぺた と障子の隙間から目の前に出てきた足の爪は五つの内、三つが剥がれて血に塗れていた。

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