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いばらの虜囚 21

「ぁ そ、そんな……外では……」 「外、では?」 「……大神さんの前は、や やめて  くださ   っ」  ぎち と音がしそうなほどの勢いで耳を引っ張られ、セキの体が爪先立ちになった。   爪の禿げた足で懸命に背伸びをしなければ、悟はあっさりと耳を引きちぎってしまっていただろう。 「ぅ゛……」 「素直になれって言ったな?」 「は い」 「そう、従順にしていれば可愛がってやる。逆らうならどうなるかわからん、お前も慧もな?」  小刻みに全身を振るわせながらセキは「はい はい 」とすすり泣きながら繰り返す。 「いい子だなぁ? 俺はそう言った素直なところが大変、気に入っている」 「……はぃ」 「さぁ、綺麗にしてこい。しっかり世話をするんだぞ? 未来のお前の義母になるんだから」  二人の反応を楽しむように悟は言うと、耳を掴んだ手を振るって大神の方へとセキを投げつけた。  怪我をした足では踏ん張ることができず、セキはよろめいて大神へと倒れ込む。  元々ほっそりとしていた体が、身体中についた傷でさらに削られたように見え……大神は粗い顔立ちに険しい表情をのせる。 「ぁ……す、すみませ……すぐ、すぐに立ちます」  ふらつく体を支える手を眺め、悟はニヤニヤと笑いながら障子を閉めた。  やけに響くピシャンという音に押されながら、大神は上着を脱いでセキの体へとかけてから抱き上げる。  細い体に重い生地の上着はセキを押しつぶすかのようにのしかかり、頼りない存在を塗りつぶすかのようだった。   「わっ ぁ はは、大神 さん に、 」  お姫様抱っこ……と言葉が小さくなっていき、数歩進む頃には口からは何も出なくなる。  代わりに小さな震えが肩を揺らして息を詰める気配だけがして……  足をつけたタライの中、じわりじわりと赤い色が水の中に漂う。 「……剥がれた爪は当分痛むだろう」  体を清めて椅子にポツンと座るセキの前で大神が膝を折る。  誰にも屈せず聳えていた体が小さくうずくまり、セキの足をとってタオルでそっと拭いていく。  指先はそのごつごつとした見た目からは信じられないほど柔らかに優しく爪先を扱う。熱い指先がすっかり体温をなくしてしまった足の甲を辿り、剥がれかけて血の滲んだ爪先に遣る。 「お 大神さん、オレっ……が、頑張りましたよね?」  瘧のように体を震わせ、セキはうまく動かない唇ですがるように尋ねた。 「耐えろって だから、オレっ……そう言うことですよね?」  足に包帯を巻いていく手に澱みはなく返事も返らない。静まり返った部屋の中で包帯が擦れる微かな音が空間を満たしていく時間が過ぎ、手当を終えて救急箱が閉じられるまで静かなままだった。

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