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いばらの虜囚 23

 セキは去っていく背中から視線を逸らし、辺りをさっと見回してからよろよろと歩き出す。 「お部屋を出て右に進まれると食事のために使っている部屋に着きます」  壁にぶつかると硬質な音がしそうな声音で伝えると、大神はセキの返事を待たないままに障子を引いた。  さっと開けられた障子の向こうにいたのは数人の若衆と二人の中年の男、それから上座に悟が座っているのが見え、セキは身をすくませながらどうしていいのかと辺りを見回している。 「親父の隣りに、お座りください」  後ろからそう告げて、大神は一歩下がって部屋の外に出た。 「え……でも……」 「やっと来たか」  セキの戸惑う声も悟の一言にかき消されて終わってしまう。  食事の並んだ座敷机の左右に顔色悪く黙って座っている人々の後ろを通りながら、悟の方へと進んでいき……  一つだけぽかりと空けられた座布団にそろりと座った。  爪が剥がれた指を庇うように少し正座を崩すようにして落ち着くと、座敷机に座っていた全員の視線が自分を見ているのに気づき、セキは思わず飛び上がった。その拍子によろけて悟の腕に縋る形になってしまい、慌てて謝って下がろうとしたが叶わない。  腰にしっかりと伸びた手に腰を抑えられて、セキは半ば悟に体重を預けるようにしてしまっていた。 「皆、お前を待っていたんだ」 「お……お、お待たせして、す  っ」  すみませんでした と謝罪しようとした言葉が、座敷机に振り下ろされた拳の音にかき消される。 「まさかお前ら、俺のオンナに謝らそうなんて、そんなことは思ってないよな?」  悟がそう言って、この場で否を言える人間なんていなかった。  全員顔色の悪いままに頷き返し、近くの何人かが「そうですそうです」と壊れた機械のように繰り返す。異様な空間に、セキは薄く開いていた唇をギュッと結び直し、居心地悪く体勢を立て直そうとする。 「どうした? このまま座ればいい」  このまま? と口に出しそうになってセキははっと昨夜のことを思い出し、何も言わずに静かに悟の膝の上に腰を下ろした。  その様子に、ますます周りの顔色が悪くなっていき…… 「ほら、お前が遅いから皆腹ペコで具合が悪そうだ、そうだな? 真田」  悟の次の上座に腰を落ち着けていた真田が飛び上がる。 「はい、お腹がグゥグゥ鳴ってて……お恥ずかしいです」  そこで終われば普通の会話だった。  このまま目の前にある、少し冷めてしまっているかもしれない朝食を皆で食べて和やかな雰囲気になる、そんな会話だ。  けれど悟はそこで口を閉じなかった。 「セキ、俺と親子の盃を交わした真田の腹が減っているそうだ。親子の盃を交わしたとなったら親子同然だよな?」 「は……い」

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