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いばらの虜囚 27

「あんたはっそんな人じゃなかっただろっ⁉︎ 新反解体法で次々組が潰されたあの時……崩れかけた神鬼組を支えて、あぶれた俺達みたいなのの世話も焼いて……あんたに拾われて、感謝しているやつだって大勢いる! 俺だってそうだ! まだあんたを信じたいし信じている! 特に若衆はそうだっ! なんて今更帰ってきた奴らにペコペコするんだ⁉︎ あんたならっあんな奴ら黙らせることだってできるだろ!」  一気に怒鳴り上げた男の喉がひゅうと鳴り、激しく咳き込んで地面の上を転がる。  脂汗が滲みそうになるほど痛む胸を押さえながら、それでも大神に向かって手を伸ばす。 「乗り込んできたアルファの小僧だって、あんたが助けなかったらとっくにバラバラにされて売られてた! あんな奴まで救うあんたがっどうしてあのオメガを放っておくんだ⁉︎」  必死に尋ねかける男の言葉に大神は一度だけ瞬きをしたが、それがすべてだった。  興味を失ったように視線を逸らすと、先程まで人を血まみれになるほど殴りつけていたなんて思わせない様子でそのまま立ち去ってしまった。  若衆が気まずそうに野菜を側に置き、キッチンというよりは台所といった風情の部屋に立つ大神をチラリと見遣る。  いつも大勢の食事を作る所帯じみた場所に大神がいる光景は、ぽっかりそこだけ下手な合成のようだ。 「あの……俺達がやりますんで……」 「いや、そういう指示だからな」  そういうと大神はスーツの上着を脱ぎ、黒いシャツの袖を捲り上げた。  あまりにも料理に向かない格好に、若衆はエプロンを勧めようかと迷い……結局、何も言えないままにテーブルで野菜の下処理を始める。  こんなことをさせていい人じゃないのに と心の中で思うも、下っ端の言葉なんて聞き入れてもらえる可能性がないのが、この自分の所属する組織だ。  大神に恩があったこともあり、野菜を取る手を止めて若衆は眉を八の字にして広い背中から視線を外へと向けた。 「…………」  ネックガードを犬の首輪に見立てて……  引きずられるように歩かされるセキは、少し前まであんなに鮮やかな笑顔を見せていたというのに、今では貼り付けたような口元だけ歪ませる笑顔をしている。  悟の情夫にする と取り上げられたセキは、その後に組員達の面倒を見なければならない と理由をつけられて、体良く嬲りものにされていた。  今のように犬に見立てる者もいればサンドバッグのように扱うものもいた、悟の手前堂々とした性的な事柄はなかったが、それも悟の目がなければ自由だった。  大神はセキがそんな目に遭っていると知って……いや、見ていながら何も言わないままだ。

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