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いばらの虜囚 28
「野菜を」
「あっ……はい……」
幾ら上の人間の言葉が絶対だとしても……と、若衆はチラリと大神を見上げてからすぐにさっと視線をずらした。
ムショボケした連中に唯々諾々と従う理由がわからず、気まずい思いを拭いきれないままだ。
料理なんてできるんだろうかとハラハラとしている若衆の前で、意外にも大神は澱みない動きで大根を切り始める。
その若衆が知る限り、大神はそんなことをするような生活はしていなかった。何よりこの組の一人息子として生まれて、お付きだっていたというのに組の雑用となんの戸惑いもなくこなす姿は想像もできないことだった。
新反解体法で組長を始め幹部と言わず所属の認められた人間が軒並み逮捕された時も、行き場を失った準構成員やそれ未満の人間達をまとめて、組という形では無理だったがそれでも神鬼の組織としての在り方を支え続けたのが大神だ。
そんな人がどうしてこんな扱いを……と、若衆は下処理をした野菜を追加で大神の傍に置く。
横顔に、今の状況に対する不平不満を見つけられず、若衆は肩を落とす。
自分自身も大神に世話になって救われた身で、なんとか大神の助けになりたいと思っていたが、大神本人がこの状況に逆らおうとしていないことには、正直裏切られたような気持ちを抱いていた。
「────おい、これも洗っておけよ」
ぞんざいな言葉と共に、台所の入り口から投げ込まれた汚れ物が詰め込まれた籠に、若衆が顔をしかめる。
「向こうに持っていけよ、俺達は今日は料理番だぞ!」
「はぁ? お前に言ってねぇだろ、そいつに言ってんだ」
洗濯籠を投げ込んだ男はそう言って面白そうに大神を見遣り、足元の籠を蹴り飛ばす。
集めて来た様々な汚れ物が床に散らかって、むわりと顔をしかめたくなるような臭いをまき散らした。
「おいっ!」
「だってそいつ、一番下っ端なんだろ?」
「大神さんに向かってっ……もう一遍言ってみろ!」
足で洗濯物を蹴り飛ばす男も、若衆と同じように大神に拾われてきた人間だった。自分と同じように大神に恩を受けていたのにこの仕打ちは……と、若衆は歯を食いしばって男を睨みつける。
けれどその男はげらげらと笑って若衆の視線をなんとも思っていないようだ。
「さんって、そんな御大層に呼んでんの? はは。そいつは神鬼組に入りたくても入れない半端ものなんだぞ? つまり俺達以下だ」
「お前っまだ組とかなんとか言ってんのか⁉」
「組長達が戻ってきて、神鬼組はこれから復活するんだぞ? 組もまともに守れない、組長にも認めてもらえない人間についていったって先細りだろ? 賢く生きないとな」
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