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いばらの虜囚 31

「でも……」  顔を赤くしたまま、ボーイは救いを求めるように視線を左右に揺らした。  それを抑え込むように壁際に追い詰めて……互いの息が絡むような近さでもう一度窺うようにボーイを見つめる。  揺れる視線と熱を帯びていく息と……それから、ボーイから放たれる絡むようなねっとりとしたフェロモンに直江は魅惑的な唇をゆっくりと吊り上げた。 「頼むよ」  もう一度ゆっくりと札を持つ手を促し、包み込むようにして体温を分け与えると、ボーイは観念したようにこくりと無言で頷く。 「あ……開けてもらえるとは限りませんし……」  ボーイのちらちらと動く目が自分のどこを見ているのか理解した直江は、絡めとるように柔らかな笑みを浮かべて「他のことは後で相談しよう」と潜めた声で囁いた。  そそくさと奥の扉の方へと向かうボーイの背中を冷ややかに見つめながら、直江はドアが開いた際に中が見えやすい位置に移動する。  ちょうど角が四角になって隠れることができるだろうと壁に背中をつけた直江の耳に、ドアが開く音が届く。 「灰皿の交換を……」  自分が言った通りの言い訳をしているボーイの背中越しに中を覗くと、すれ違った連中の姿が見えて……フラフラとドアへと歩いてくる一人の姿が見えた。  それは確かにセキだったが…… 「……」  直江はその後ろに大神の姿を探してつい身を乗り出す。  セキはおぼつかない足取りでボーイの前まで来ると、掬い上げるようにしていた手を差し出した。  側で見ていなくとも、その手の中に山になった煙草の灰とたくさんの吸い殻があって…… 「なんで……」  艶があって綺麗に整えられていた髪は今ではボサボサだ。  顔色は白く血の気がないのに末端だけは妙に紅潮していて奇妙で、潤んだ瞳は涙か……それとも興奮しているのか判断がつきかねた。  ただ一つはっきりわかるのは、暴行を……それも陰湿な性暴行を受けていると言いうことだった。     くたびれた赤いパーカーで太ももの辺りまで隠されてはいるが、傷と痣の浮き出た白い足にはピンク色の垂れたコードがくくりつけられていて、刺激を与え続けているのだとわかる。 「これを……それから、おしぼりを多めにください……」  セキの声はつっかかるように掠れて力がなかった。  灰をボーイの持っていた盆の上に落とし、一瞬だけ赤黒く爛れた手を握って顔を歪めたのが、表情らしい表情だった。  直江は間抜けにもぽかんと唇を開いたまま、ドアが再び閉じられるまでそのことを理解しきれない…… 「これで、よろしかったでしょうか?」  急いで戻ってきたボーイは赤い顔を軽く伏せながら、まるで直江に誉められるのを待っている犬のような様子だ。   

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