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いばらの虜囚 35

 促され、頭を下げていた大神は顎に力を入れながらゆっくりと姿勢を正し…… 「どこの犬のペニスを咥え込んだのか緩くなってしまってな? それならってことで首を絞めてやっている」  またもはは と笑い声が聞こえてきたが、目の前の光景はそんな笑い話にできるような状況ではなかった。  小さな体が貫かれ、それだけでも痛々しいのにその折れてしまいそうな首は屈強な男の両手でギチギチと絞められていっている。  白い顔が青みを増して、口の端から泡がぐつぐつと奇妙な音と共に溢れ出し、痙攣する爪先を濡らす失禁は震えのために辺りにぶちまけられて……  セキの焦点の合わない黒い瞳は到底あり得ない方向を向き、鼻から流れ出た血がぶふぶふと豚の鳴き声のようなことを響かせていた。  ほっそりとしたあの首がまだ無事なのは、ネックガードが頑丈だったからだ。わずかにひしゃげることはあっても、寸でのところでセキの首を守っている。 「…………加減を間違えると、死んでしまいますよ」 「そんなこたぁないさ。それにこいつも激しいのじゃないと最近は反応しないしな?」  ぱ と手を離されて、急に酸素の恩恵に預かったセキの体が魚のように跳ね上がる。  支える気もない悟の手から転がり落ちると、ヒィヒィと冬の風のような掠れた呼吸を繰り返しながら苦悶に顔を歪ませた。  胸を掻く手に、爪はすでにない。  傷のないところを探す方が難しいような体は、内部も痛めつけられているのか放り出された足の間から噴き出すのは精液ばかりではなく赤いものも混じっている。 「セキ」  大神が呼んだ名前にセキは反応しなかった。 「セキ」  もう一度呼ぶと、セキは首を傾げるようにして当たりを見回し、そうしてからやっと大神を見つけたようだった。 「あ、大神さ……お、大神」  慌てて敬称を取り払い、セキはそこでやっと明かりを見つけたのかそちらへ顔をやる。 「お、大神 だよね?」 「はい。大神にございます」  真正面で向き合っているのに、セキは返事が返ってきてやっとホッと胸を撫で下ろす。そして軽く首を傾げて左耳を突き出すような仕草を見せて、「そうだ!」と今までのように話しかけてきた。  セキは自分の体の傷を懸命に隠しながら、できるだけ平静を装った声で大神に話しかけ続ける。 「今日の夕飯美味しかった! オレ、あれ好きだ   っ」  言葉が不自然に途切れ、セキの体がどん という大きくて鈍い音と共に前へと倒れ込んだ。  指先が痛むのか、爪のない手では体が思うように支えることができなかったようで、セキは無様に畳の上に身を横たえる羽目になった。  

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