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いばらの虜囚 41

 大神が答えないでいる間に、その涙がどんどんと広がって…… 「あれって……結婚しろってことですよね?」  かさついて皮が破れた唇が小さく尋ね…… 「オレはっ⁉︎」  叫んだ瞬間、裂けて血が溢れ出す。 「オレはっ、貴方のオメガでしょ? ……そうでしょ? 大神さんがオレを見つけてくれて、助けてくれて、ずっとずっと側にいてくれて……オレを守るために王さまにだって喧嘩を売ったじゃ無いですか! ずっとフェロモンをつけて他のアルファなんか近づけもさせなかったっ! いつもオレを優しく抱いて、大好きなんだって……言葉にはしなくとも感じさせてくれてたじゃないですか! オレは貴方のものなのに、大神さんが他の誰かと結ばれるなんて……」 「違います」 「え……」 「貴方は神鬼組の組長の番になるんです」  硬質な感情を滲ませない双眸がじっとセキを見下ろす。  そこから何を考えているのか読み取るのは困難で、セキは震えながら繰り返し首を振る。 「なりませんっオレは貴方の番になるんですっ! な、何……されても、我慢 がまん…………我慢します、から、それだけは、いやです」  まだ生々しい火傷痕を見せる手で大神に飛びつき、細い腕で大神を揺さぶった。  けれど、そんなささやかな力で大神が揺らぐことはないのをセキはよく知っていたから……ゆっくりと力つきてうずくまるようにして泣き出す。  絹を裂くような甲高く哀愁を帯びた声は夜のしじまによく響き、聞く人間の鼓膜を振るわせ続ける。 「お オレっ大神さんに、大事にされているとわかってました、……側に置いてくれるならいつか、結婚とかは無理でも首を噛んで、番にしてもらえるかもって希望を持つくらいに!」 「俺はいつも、番を探せと言っていたでしょう」 「っ! ……その番が、これですか?」  爪のなくなった手を広げ、音が聞きにくそうに耳を傾け、片目の奥は白く濁って明らかに異常が起きているのがわかる、そんな状態だった。  明らかに、番にしようと……慈しもうとしている相手にする態度でないのは、誰だってわかることだ。 「……貴方は、オレをこんな目に遭わせたかったんですか?」  嗚咽の合間から尋ねる声に大神は返事をしない。  ザンバラに散らばるくすんだ黒髪を静かに眺め、慰めの一言も口に出さなかった。 「………………貴方は、耐えろと言った」  幾度も繰り返した言葉を告げ、セキはさっと頭を上げる。  幽鬼のような色の悪い肌に覚悟を決めた表情を見せ、涙を拭って胸を張った。 「だから、耐えます。組長に噛まれても、ベータとは番えないんですからっ! ……組長の気が晴れるまで噛ませて…………そしたら……終わりますよね?」  

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