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いばらの虜囚 43
大神は隠れきれていないと言うのに、まるでモブだとでも言いたげな様子で他の組員達に埋もれるようにして後ろに控えていた。
声は、届きそうで届かない距離。
セキは一縷の望みをかけてなんとか唇だけを動かし、大神に向けて「助けて」と一言だけ伝える。
声は出なかったけれど、大神の視線はしっかりとセキの方を見ていたため、意図は伝わっているはずだ。セキは大神がすぐに立ち上がってその太い腕で自分を攫ってくれると信じて微笑んだ。
「……」
「どうした? また躾し直さなければならないのか? おい、針を持って来い」
「いやっ! いやですっ! できますっ……でき、できます……お、オレ、 の、雑魚オメガま○この、子宮がっ……さ、悟さんの、精子をごくっ……ごくごくおいし、ってしたくて、し、したくて、ヨダレ、垂らしてます……」
途切れ途切れになんとかセリフを言い切ったが、それはあまりにも拙いためにメモを読んでいるよりも酷い。
悟はそれが不満そうで冷ややかな目を一瞬したが、気を取り直して大神に向かって顎をしゃくった。
「持ってきたんだろう? 出せ」
「……」
本来なら「はい」と答えなければならなかったのに、大神は無言のままゆっくりと悟に近づいて手を差し出した。
肉の厚い無骨な掌に転がっているのは飾り気のない銀色の棒だった。
悟が怪訝な表情をするほどシンプルな棒は、大神がわざわざ持っていなければ鍵だとは誰も思わないだろう。
「これが?」
「……」
悟は大神の返事を待たずに乱暴にセキのネックガードを掴むと、力任せに自分の方へと引っ張る。
棒を矯めつ眇めつ見てから、ネックガードの上部にそれが入りそうな穴を見つけて躊躇なく差し入れた。
ネックガードの小さな穴は長い銀色の棒をゆっくりと飲み込んでいき……
「ニセモノか?」
「いえ、ニ段階認証になっています」
なんの反応も見せないネックガードに訝しむ表情を向けていた悟に、大神は冷静に返す。
その息子の様子に……悟は薄く笑った。
「それで? 二つ目は?」
「…………」
表面上は平静を装い、なんら普段と変わることのない姿だったが、その場にいる一同全員が張り詰めた空気を感じ取っていた。
親子の間に漂う気配はそこに血の繋がりや情なんてものはかけらも見当たらない。
次第に荒くなっていくセキの息に押されるように、悟はもう一度大神に問いかける。
「二つ目は?」
「……指紋認証になっています」
ぎ と奥歯が鳴った音が誰の耳にも届いて……
悟はひどく愉快そうに「どの指だ?」と尋ねる。
笑っているのに歪んだその横顔は狂人のそれと寸分の狂いもないもので、その場にいる人々はますます口を引き結ぶ必要があった。
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