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いばらの虜囚 44

「指です」  長い沈黙ののち、大神はセキの手元を見て言う。 「どの指だ?」 「…………」  体に力が入らなくなてきたのか、セキの体はゆっくりと崩れて背後の柱にもたれかかりながらなんとか体裁を保ちつつ座っている。  その膝の上で握りしめられている拳は、まるで悟の視線から指を守るかのようだった。 「すべて切り落として試してみてもいいんだぞ?」 「ひっ  」  熱に浮かされて朦朧としながらも悟の言葉が聞き取れたのか、セキは小さな悲鳴をあげて倒れ込んだ。逃げようとして失敗した、そんな様子で倒れたセキを悟は服を掴んで引きずり寄せる。 「小指から試す。ドス持って来い」 「人差し指です、右手の」  青い顔をして並ぶ組員達に指示を出した悟を遮るように、大神はもう一つの鍵を示す。  一際きつく拳に力が込められて……けれどそれも長くは続かない。観念したようにセキはガクガクと震える手を広げて、首元へと持っていく。   「……っ」  すがる瞳が、大神を見つめる。  無骨で飾り気のない、機能ばかりを追い求めた姿をしたネックガードは、大神がセキに与えたものだった。  まるで大神を写し込んだかのようにそっけなくも頑丈で揺るがないそれは、いつの瞬間もセキを守り続けたもので……  手を止めてしまったセキを悟が怒鳴ろうとした瞬間、太い腕が伸びて宙を彷徨っていた手を掴む。 「大神さんっ」  大神の腕を引っ張る動きに、セキが嬉しげに声を上げて……けれど、それがそのまま首筋に導かれて、セキの瞳にじわりと涙が滲んだ。  指先が滑らかな表面に触れた途端、軽いカチャンという音が響き、セキの膝の上に黒い帯が落ちる。  軽くはないためかぼとん と鈍い音を立てたそれに、周りの視線が集まった。  いつもあった黒い塊がなくなってしまったからか、セキの首はいつもより細く今にも折れてしまいそうなほどに頼りない。  繰り返し擦られてついた傷跡と青く透ける血管が、白い肌をさらに際立たせて…… 「お が   っ……ゃだっやだやだっ!」  力の入らない体を翻し、セキは弾かれたように這いずり出す。  小さな子供の我儘の口上そのままに、やだを繰り返して必死に逃げ出そうとする。 「やだっやめてっ ……ここ、ここだけは、だめ、だめ、ゃ、やっ」  泣きじゃくり、腕の力がなくなって這えなくなるとわずかに動く手で頸を覆う。  発情の熱で震える手ではなんの防御壁にもならなかったが、それでもそれが最後の砦だった。 「おおがみさんっ! やっぱり、だめですっここだけ、っここだけは  っオレっ 」  貴方だけに の言葉は悟の乱暴な抱き上げにかき消される。

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