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いばらの虜囚 45
空を切ったセキの爪先を捕まえ損ねた大神の手を嘲笑い、悟は俵を担ぐようにセキを軽々と担ぎ上げる。
一瞬火花が散った親子の視線が逸らされた時、先に動いたのは悟の方だった。
「――――っ!」
どぉん と勢いよく足が振り下ろされて、セキに伸ばされていた大神の腕が踏みつけられる。躊躇のない踏み付けは、大神の骨を軋ませるほどの勢いで……
「大人しくしてろ。黙ってお前のオメガが他の人間の番になるのを見てるがいい!」
今までは、それでも組長としての、年長者としての、親としての体裁を整えていたと言うのに、今の悟にはそれらがかけらも残っていなかった。
純粋な憎悪の対象として大神を見下ろし、嫌悪し、自分のΩを取られたとしても文句一つ言えないその無様さを、ただただ……嘲笑う。
「自分が番にするのだと決めているオメガが、目の前で他の男に奪われて…………なぁ? 苦しいか?」
引き攣るような声が尋ねかけたのを最後に、言葉はすべて沈黙に埋もれてしまう。
新しい組員の中には組長の言っている言葉が分からず困惑するものがおり、古い組員で事情を知っている人間達は大神に白い目と侮蔑の笑みを送る。
「このオメガの首に、お前の歯形がつくことは絶対にない。なぜなら俺が噛むからだ」
ネックガードのない白い首を掴み、悟は見せつけるようにして力を込めていく。
「つかない と、思うか? それともつく と、思うか?」
大神は言葉を紡がないままに真っ直ぐに悟を見上げた。
すでに抵抗する力もないままにぐったりとしたセキは、ほとほとと涙を流しながら視線だけを大神に送り……
「噛み跡は……」
呻き声に聞こえる声は低く掠れていたが、それでもはっきりと人の耳には届いた。
「……」
大神は開いていた口を静かに引き結び、結局は何も返さない。
悟はβだとその場の全員が知っていて、Ωの頸を噛んだところで余程相性がよくなければ歯形なんてつかないことを知っていた。
若衆たちはその質問が、どうしてここまで大神の動揺を誘うのか分からず、にやにやと笑う赤城に視線を集めた。
組長である悟に絶大な信頼を寄せられ、この神鬼組の成り立ちから知っている赤城ならば何か知っているのでは……と思っての動きだった。けれど、下っ端の自分たちが組長の話題をおいそれと尋ねることはできず……
「ほら、慧。親が聞いてるんや、答えたらんかい」
「親父が、首を噛んでも 」
赤城に促されても大神はその先を躊躇していた。
その姿に悟は大きく笑い、振り返りもせずに部屋を出ていってしまう。もちろん、どこに向かっているかは聞かなくともわかる場所だ。
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