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いばらの虜囚 46
「っ……大神さんっ! もうっもういいじゃないですか! 今すぐセキさんを取り返して…………組の伝手なんてなくても、大神さんなら一からやっていけます!」
「俺は手伝いますっ!」
「もうこんなところ出てしまいましょうっ親の血なんてっ!」
数人の若衆がわっと叫び出した騒ぎに、赤城は忌々しげに顔を顰めて一歩後ろへ下がる。
うるさいのは苦手だ とばかりに両耳を押さえ、床に座り込んで動かない大神を蹴り付けた。
「慧、教えてやれはよかろう? これからの組を支えていく若者だとて、知っておくべきだ」
「……」
「自分の姐さんが産んだのは神鬼組の組長の子ではなく 「違います」
赤城は強い声に言葉を遮られて一瞬驚いた様だったが、すぐににやにやと笑いを浮かべなおして「滝堂組の子なんだってな」とこともなげにいい放つ。
若衆はどう言うことだ? とお互いの顔を見て……首を捻り合う。
近くでしっかり見る機会があったわけではなかったけれど、若衆たちは大神と悟がどれだけそっくりかを知っていた。
背格好、雰囲気、顔立ち、声の低さ等……この二人が他人だと言うのなら、この世に血の繋がった親子はいないんじゃないかと思わせるほど、二人は似通っている。
赤城は若衆の理解していない表情に、顔を真っ赤にして杖を振り回し始めた。
「悟はベータだが、慧の母であるオメガには頸に噛み傷が残っていた、オメガの首に歯形をつけることができるんはアルファだけだ!」
ざわ と戸惑いが波のように広がっていく。
頸を噛む行為はαとΩの間にのみなされる儀式であり、βが噛んだところでただの傷で終わってしまう。
大神が生まれた時代ではあまり知られていない事柄だったが、その後のバース性の平等を謳う政策によってそのことは世間に浸透しつつあった。
だから、首に噛み跡のあるΩの番がαであると言うような簡単な話はここにいる人間の誰もが知っていた。
「姐さんは……」
若衆は本来の悟の妻、自分たちが姐さんと呼んで敬う相手に顔を合わせたことがなく、ただずっと病床にあるのだと聞かされていた。
「祝儀の日に男を咥えこむために逃げ出した畜生が、そいつの母親っちゅうことだ」
「畜生ではないです」
はっきりと返し、大神は人を射殺せそうな目を赤城に向ける。
赤城は年長者ではあったが、長年の刑期のために体は細く弱り、大神の前に立つには貧弱だった。
熊のような存在に気圧されながらも、自分の背後には悟がついているのだからと赤城は声を張る。
「滝堂組の息子を咥え込んで、悟と祝言をあげたその夜に浮気たぁ、さすが畜生だ」
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