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いばらの虜囚 47

 赤城の目は前以上に大神への嫌悪を隠そうとはせず、冷ややかだった。 「挙句、悟がいない間に小細工までして」  そう言うと赤城の杖が大神を顔に振り下ろされる。  ごつんとした鈍い音はしたが、それで大神に何かがあるわけではなかった。  そんな程度で怯むことも傷つくこともないのだと、揺るがない態度が物語る。 「顔さえ似せれば子になれると思ったか? わしらを馬鹿にすんのも大概にせぇよ!」 「小細工なんてしていませんよ」 「はっ! 馬鹿馬鹿しい! その物言い! 滝堂の息子とそっくりだ!」  赤城は寄る年にくすんだ肌を赤くしながら、口角に泡を飛ばしながら叫び続けた。 「最後まで口の減らんクソガキだった!」 「最後?」  大神が繰り返した言葉に、それまで勢いよく叫び続けていた赤城は飛び上がるように反応した。  何事かを言い返そうとしてうまくいかず、杖を振り回しては「やかましい!」と怒鳴りつけてくる。 「悟はお前が自分の子でないことを知っているんだ! それで十分だろう!」  それ以外に何も話すことはないと、赤城はふぅふぅと上がる息を宥めながら再び大神に向かって大きく杖を振りかぶった。  「大神さんっ!」  一人の若衆が老人に飛びかかったのを皮切りに、その部屋にいた組員達が一斉に動き出す。  赤城を止めようとするものもいれば、それを止めようと怒鳴りつけるものもいる。さらにそれを遮ろうとするものも出て……  まるで限界まで膨らんだ何かが弾けたように、一気に怒声と人を殴りつける音が上がった。 「行ってくださいっ! ここっ……ここは、なんとかしますから!」  叫んだ若衆の顔に杖が振り下ろされ、鈍い音と共に赤い雫が飛び散る。  咄嗟に怯んで片目を押さえた若衆はそれでも強い視線を大神に向けて、セキの後を追うようにと首を動かした。 「俺はっ血よりも濃いものがあると思います! 大神さんが今大事にしなきゃなのはっ血なんかじゃない! セキさんへの情ですっ」  目を押さえた手からじわりと滲む血を見て大神は眉をひそめたが、「行ってください」と叫ばれて弾かれるように立ち上がる。  広い背中はどうして赤城の打撃を甘んじて受けていたのかがわからないほど大きく、強靭で揺るがないように見えて……若衆はほっと胸を撫で下ろして左目の痛みに顔をしかめた。    腹に響くような足音に、悟はゆっくりと顔をあげて血の滴る口角を吊り上げる。  誰かと考えるまでもない音の主に、体の底から笑いが這いずり出して顔を歪ませていく。 「  ぅ、  う」  セキの、途中から奇妙な方向に向いてしまった両手の前腕を見下ろし、機嫌良さげに体を揺すっては喉の奥から笑い声をわずかに漏らした。

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