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いばらの虜囚 48

「お前の男は薄情だなぁ? こんなになってもお前を助けようとしない」  痣と傷で赤と紫、それから鈍い黄色に染まった背中を撫で、無防備になった頸に指を這わせて繰り返し確認するようにこする。  そこから漏れ出す濃密なフェロモンは、それを嗅ぎ取るのが苦手な悟ですら気づくほど甘く濃く、今にも熟れ落ちそうな果実の気配を漂わせていた。  熱に浮かされ、腕を折られてセキの呼吸はヒュウヒュウと今にも途切れそうなほどに弱々しい。 「ああ、ここも。最初に突っ込んだ時は綺麗な形をしていたのになぁ、今じゃぐずぐずで……これちゃんと閉まるのか?」 「ぅ…………」 「なぁ? ヒートが苦しいんだろう?」 「ち が、   」  悪夢にうなされた子供のように、セキは譫言のように「違う」「違う」と繰り返す。まるでそれだけが縋れるものだとでも言うように、口に出しては荒い息を吐き出した。 「苦しいよなぁ? よく知ってる。よく知っている」  セキと同じように悟の言葉も繰り返される。  その瞳はセキの鶏ガラのような体を見下ろしながらもどこか遠くを見ているようで、焦点の定まりがよくわからなかった。 「ながぁい髪を乱してな、本当に苦しそうだった」  汗で張り付いた髪を鷲掴んで、悟は力任せに引き上げる。  限界までしなる背中に汗が伝い、体を支える腕もないセキは声にならない悲鳴を漏らす。 「でもなぁ、いない番はこれないからなぁ」  耳元で囁かれる声は普段のものよりぼんやりとして、まるで寝ぼけているかのようだった。 「いな い?」 「……そうだな」  問いかけの返事の仕方は大神とそっくりで、低く響く声は親でも間違えそうなくらいだ。 「さぁ、お前は俺の番になれるだろうか?」  呆けたような問いかけはセキに向けているようで向いていない。  悟が何を考えているのか、外から見て理解できる人間はいないと思わせるほど、その横顔は感情がなく凪いだ水面のようだった。 「ゃ ……ならな   」  セキは髪がちぎれるのも構わず、首をそらして逃げようと試みる。  腕を折られ、体にのしかかられ、髪を掴まれ、それでも身を捩って逃げようとする姿を見下ろす悟の目は不思議なほど陰鬱だ。 「    ――も、そんなふうに、拒絶をしたのだろうか  」  肉厚な唇にこねられて、言葉は途切れ途切れにしか響かない。  誰かに問いかけるような声は結局、誰にも聞かれずに消えてしまった。    薄ぼんやりとした一瞬の沈黙の後で、悟は我に返ったように改めてセキを眺めてから手を離す。  放り出された衝撃に呻く体を押さえつけ、悟はセキが暴れた際に傷ついた口元を拭った。  

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