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いばらの虜囚 53
「これ は……」
そう呟いたと同時にざらりとセキが解ける。
いや、セキの形をしていたナニかが元の姿へと戻っていく。
「Hello, hello, hello!」
軽やかな声と共にまるで作り物のような砂時計型のくびれた腰が現れ、それを覆い隠すように長く緩やかにうねる金髪が垂れ下がる。
蜂の腰を捻って大神の方へ向くと、白く長い腕を伸ばして甘えるようにくるくると指先を回して上着を強請った。
「このままじゃ恥ずかしいわ」
そう言いながらもその女の動きに恥じらう様子は一切ない。
豊かな胸とくびれた腰、柔らかさを隠しもしない腰回り、どこから見ても完璧な肢体を惜しげもなくさらしながら、その美しい顔は飄々としていてまるでショッピングにでも出掛けているような様子だった。
「お前は……」
女は堀の深い整った顔を悟に向け、艶やかな笑みを見せてチュ と赤い唇を動かす。
「……あの、バケモノアルファか」
「 」
一瞬、整った顔が歪んだ。
「――――すがる」
けれどそれも大神に名前を呼ばれ、すがるの顔は再び美しい笑みを取り戻す。
大神はすん と鼻を鳴らすように臭いを嗅いだ後、部屋に入りながら脱いだジャケットをすがるに手渡した。
「……お前ら…………」
ぶる と悟の筋肉が震えて盛り上がる。
二人に見下ろされる立場だというのに、悟は怯むどころか相手を飲み込まんばかりの怒気を放つと、俊敏な動きで飛び掛かろうとして……無様に倒れ込む。
何かに足を掴まれた感覚に悟が足を見るが、特に何があるという様子ではない。……いや、よくよく見れば細い細い糸が足首に絡まっているのが見えた。
悟は一瞬、それは掃除の際に取り残された一本の髪だと思い無視しようとした。
「ゆるさねぇぞ! 全員っ全員だ! お前に縁づく全員を魚の餌にしてやる!」
「それは 」
腹の底から怒鳴り上げる父と違い、大神の声は感情が込められていない。
楽しげに髪先を指に巻き付けているすがると言い、二人はやはり目の前の男に対して何か感情を動かしているような雰囲気はなかった。
「 それは、母も含むのか?」
はっきりと息子が口に出した単語に悟の肩が跳ね上がる。意識してはいないのに筋肉が引き攣ったように不意に動いて、悟の体は驚かされたようにピクリと跳ねる。
「母も、滝堂やセキにしたようなことをする気なのか?」
太い喉元がゆっくりと波打つ。
悟は確かに言葉を発しようとしたが、喉が干上がったのか微かな呻きしか出ない。
「貴様がそうするなら、容赦はしない」
親に告げるにはあまりにも他人行儀な言葉だった。
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