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いばらの虜囚 57

 随分と張り込んだな なんて言葉に、大神は曖昧な表情をしながら深く頭を下げる。 「ええ、両親の葬儀ですから  」  そう言って顔を上げた大神の目は喪主というにはあまりにも鋭い目つきをしていた。  尋ねた人間はもっと揶揄するような言葉を言おうとしたのを飲み込み、「突然のことで……お悔やみ申し上げます」と型通りの言葉を言ってそそくさと去っていく。  弔問客のほとんどが悟の関係者で、しかもそのほとんどは悟の隣に並ぶ大神の母である咲良を見て、こんな可愛らしい奥様がいらっしゃったのですね と言葉を漏らした。  それが彼女の扱いだ。  悟は彼女を面に出さなかった。  妻という立場で公の場には出ず、咲良が入院してからは顔も見せずにその存在そのものを無視して……  咲良は訪れることのない悟を待ち続けて、あの日に亡くなった。 「……」  携帯電話の震えに大神は少し場を離れて壁際に寄る。  画面には「瀬能」の文字が表示されていて、大神はそれを見てため息を吐きながら通話ボタンを押した。 「  やぁ、忙しい時にすまないね」 「いえ」 「  この度はお悔やみ申し上げるよ」 「ありがとうございます」  大神の声は普段通りの堅苦しく淡々としたものだったが、わずかに滲む複雑な感情を瀬能は感じ取っていた。 「  こんな時にそっちにいなくて悪かったね……困ったことはないかい?」  柔らかに問いかける瀬能の中では、大神はいくら背が高く屈強になろうと幼い頃から知っている子供だ。 「いえ。先生には母のことでも尽力してくださり……感謝しています」  四角四面な返事に瀬能は苦笑を零す。  瀬能は二、三言告げると人に呼ばれたからと電話を切った。 「……」  暗くなった画面に目を落とすと、そこに映るのは疲れのためか翳を含んだ大神自身の顔だ。けれどそれは祭壇に飾られた父の顔と同じで……大神を陰鬱な気持ちにさせる。 「大神さん、よろしいですか?」  若衆が声をかけると、大神は一度瞬きをしてからそちらへ向き直った。 「最後の奴も見つけました」 「そうか」  大神はゆっくりと頷くと登録されていない携帯電話の番号を押す。  呼び出し音はほぼ鳴らない速さで繋がると、向こうから弾けるような軽やかさの「Hello, hello, hello!」という声が響く。 「すがる。たっぷり食事をしろ、苗床が必要ならそれに使ってもかまわん」 「  はぁい!」 「時流に乗れないものは必要ない」  若衆はその言葉は聞いてわずかに肩を揺らした。  聳え立つ先の見えない崖のような背中を見上げ、あの時に唯々諾々と頭を下げて古参の組員だけでなく、調子に乗った奴らに虐げられていた姿をぼんやりと思い出す。

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