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いばらの虜囚 61
よろつきながら立ち上がると、滝堂は神棚の方へと向かうと深く一礼する。
神棚に手を伸ばすために小さな椅子を動かそうとするから、大神が立ち上がってそれを手伝った。
「おお。坊はお手伝いのできるいい子だな」
その物言いに大神は言い返そうと口を開いたが、結局は何も言えないままだ。
「これだ。これ」
不安定に椅子の上に乗った滝堂を支える大神の目の前に封筒が差し出される。
どこにでもある茶封筒は中に何かが入っているらしく、指一本ぶんくらいの膨らみがあった。
「さぁ、おじいちゃんがお小遣いをやろう」
滝堂は好々爺の表情で大神にそれを差し出した。
大神は困惑しながらもそれを受け取り……その重さに「お小遣い」ではないことに気づく。
「……」
「お前らが欲しがっていたものだ」
「……こんなところに」
幾度も交渉を持ちかけて欲した滝堂組が保有している情報が、こんな形で置かれていることに、大神は呆気に取られて手の中の封筒と老人を交互に見比べた。
「なんだ、文句でもあるのか」
「いえ、ありがとうございます」
「ふん」
鼻で笑うと滝堂はさっさと自分の席に戻り、木の椀から寒天を使った菓子を取り上げると面倒そうに包装を剥く。
その様子で、先ほどまでの一連のやり取りがただの老人の戯れだったのだと、大神は察する。
苛立ちを感じてはいたが、何も言わずに席に戻って埃の積んだ封筒をそっと開けて中身を覗いた。
「オメガの密売ルートなんざ、とっくに潰れて無くなってるだろうに」
「……」
「破門したそいつを探した方が早いんじゃないか?」
「コンクリは喋ることができないので」
しれっと返すと大神は中にあった紙の束に目を通していく。
すべてが手書きで、ところどころは走り書きを超えるような乱雑さで書かれており、しっかりと読み解くには時間がかかりそうだった。
「ありがとうございました」
懐からまとまった金額の入った紙袋を出そうとすると、睨めつけるような視線が大神を射抜く。
「孫から金なんざ受け取らんからな」
つっけんどんに言うと老人は菓子に手を伸ばしてもう一つ摘み上げた。
大神は金を握る手にわずかに力を込めてから、懐に戻さず机の上に勢いよく置く。
「おい」
「うるせぇ。孫の孝行ぐらいおとなしく受け取っとけ、くそじじぃ」
滝堂の、はっと見開かれた目の奥が何かを映してゆっくり揺れる。
「は はは」
急に萎んだように滝堂は体をすくめると、深い深い溜め息を一つ吐いた。
長年詰めていた息を一気に吐き出したかのように、すべてを吐き切って老人は抜け殻になったようだった。
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