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いばらの虜囚 62
滝堂はまた小さく笑いを漏らし、節の目立つ指を気だるげに大神に向かって振ると「疲れた、もう帰れ」と声を絞り出す。
大神は立ち上がるが老人は顔もあげないままだった。けれどそれを気にする様子もなく背を向けると、「またな」とぶっきらぼうに吐き出して歩き出した。
背に聞こえる小さな笑い声を聞きながら大神は家の外に出ると、庭で手持ちぶたさに木の葉っぱを引っ張っているすがるに声をかける。
「いくぞ」
すがるは綺麗なアーモンド型の目を一度だけ瞬かせて、艶やかな笑みを浮かべて頷いた。
極楽鳥を頭に乗せたような風体のレヴィが小さな壺を大神の前に置く。
「指示された通りにしたよ」
飾り気も何もない白いそれは骨壷だったが、中に入っているのは灰だけだった。
「滝堂家の菩提寺に預けろ。あとは向こうがやってくれるだろう」
レヴィは火に沈み、緩やかに縮みながら焼き尽くされていく般若を思い出しながら頷く。
人は生きれば死ぬものだ。
本来なら腐って何もなくなってしまう中、毛皮を残すことができた滝堂俊吾に対してレヴィは微かな憧憬は抱いたが、それ以上の感情は何も思わない。
淡々とした表情のままで頷くと、大神の奥歯がギリと鳴り響いた。
「これですべて片付いたな?」
「うーん。すがるの食事が終わったかどうかは知らないけど、終わったんじゃないか?」
レヴィの言葉はどこまでいっても他人事だ。
大神は一瞬目にイラつきを宿したが、何も言わないままに足早に部屋を出て車に乗り込む。
いつもは直江がドアを開けるのだが、それすら惜しむように乗り込むと「空港へ」と短い指示を出した。
乾いた空気と風に含まれる花の匂い。
どこか懐かしさを感じさせる蒼穹に、大神はタラップを降りる足を一瞬だけ止めて空を仰ぎ見た。
空に落ちる と感じた瞬間、「お待ちしておりました」と流暢な言葉が大神を出迎え、視界一面を赤い紗が覆う。
極上のアメジストの瞳と混じり気のない金色の髪、彫刻像が人になったと言われても信じてしまいそうな美貌を持ったΩが優雅に首を垂れた。
「ミスター大神」
朝露を含んだ赤い薔薇で丁寧に染め上げたような唇に名前を呼ばれ、大神は隠すことのない険を浮かべる。
「挨拶はいい」
この国でクイスマにそんな言葉を吐く人間はいなかった。
王ですら尊重する身につけんどんな声をかけられたというのに、クイスマは怒りも見せないまま優雅に微笑んだ。
「王宮にご案内いたします。ただいま市内は祝賀のために混雑しておりますので、少々遠回りになりますこと、ご了承ください」
「……」
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