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いばらの虜囚 65
真っ直ぐに顔を見ながら告げられて、大神は眉間の皺を深くしながらトレイの上のネックガードに手を伸ばす。
持ち上げただけでふわりと香ってくるのはセキのフェロモンだ。
これが、セキのものだと示す十分な証拠……
「オメガは、王のフェロモンに逆らえない、なのに 」
「セキは、どこだ」
「っ!」
のしかかる圧に、カイは恐怖を感じて一瞬身を竦ませる。
匂いは分からずとも肌で感じる怒気を含んだフェロモンに怯え、血の気の下がった体は小刻み震え出す。
目の前の男が自分を蹂躙しうる存在なのだと本能が警告を発し、カイは抗えない恐怖感に膝の力が抜けて倒れかけた。
トレイが床に叩きつけられる音が響いた……が、すべてはそれだけだ。
「もう一度聞く、セキはどこだ」
カイは震えながら固く閉じた目を開き、自分の体がなんの苦労もなく大神に支えられていることに気づく。
「 っ、ヒートのオメガを置いてきぼりにした奴に、 「答えろ」 Fiku vin!」
凄みを効かせるようにして吐き捨てたセリフに、大神は小さく唇の端を歪ませる。
「取り澄ました顔以外もできるんじゃあないか」
「 っうっせぇ! 自分の都合でオメガを捨てていったお前なんか っ」
体を引っ張られて、カイは思わず口を閉じた。
とっさの恐怖に身をすくませたと言うのに、大神の手はそっとカイを立たせて離れていく。無骨な手が自分を傷つけず、なんの強要もしないままに離れていったことに、カイは怯えたように身をすくませる。
「お……おいっ」
「構ってほしいなら後にしろ」
大きな手が頭上に迫り、カイは逃げられない距離に体をさらに縮こめて……けれど、手は乱暴に頭を撫でるだけだった。
一部の隙もないように飾り立てられた宝石が当たってしゃらしゃらと音を立て、乱されてしまった髪の下から覗く表情はポカンとした素のものだ。
「な、なん 「ミスター大神」
次に名を呼んだのはシモンだ。
前の二人同様、最も鮮やかな赤を身に纏って大神の方へ歩いてくる。
その様子は少し怯えているようで、大神に近付き難いものを感じてためらっているようだ。
「セキは、あちらから砂丘を見にいかれたそうです!」
宝飾を至る所につけた細腕が方角を指差すが、視線で探れるのは途中までだった。
大神はシモンの視線の先を辿り……
「ご案内いたしますので」
そう言って歩き出そうとしたシモンを大神が後ろから掴み上げる。
「きゃ」
「おい! シモンに乱暴するな!」
「喚くな。肩に乗せるだけだ」
カイにそう言うと大神はシモンをなんの躊躇もなく肩へと乗せた。
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