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いばらの虜囚 66

 Ωの中でも小柄なシモンだからこそできたのかもしれないが、大神はまるで小鳥でも肩に乗せるように担ぎ上げると、指差した方へと歩き出す。 「お、お、下ろしていただければっ自分っ自分で……っ」  シモンは揺れる視界に驚き、大神の頭にしがみつく。  高所と自分のペースではない動きの速さの恐怖から、がむしゃらに髪を掴んでしまい……シモンはサッと顔色を変えた。 「ごめんなさいっごめんなさいっ……なんてことを…………」  大神の乱れた髪を見てシモンの鮮やかな金と銀の瞳があっと言う間に潤んでいく。 「おい」 「ごめ  」 「子供が細かいことを気にするな」  「あ……あ……」とシモンの唇が震え、サッと目元に朱が広がる。  確かにシモンは他の二人よりも年若かったが子供と言い切られてしまうような年齢ではない。けれど大きな瞳と小さな唇、後は配置のバランスからか顔立ちはどうしても幼く見え…… 「私は子供ではありません!」 「そうか。それで、どっちだ」 「ぅっ……あちらです」  衛兵が顔を青くしたがそれで大神の歩みは止まることはない。  肩にシモンを乗せていることで強く出られないのか、「お待ちください」と声をかけるがそれ以上は踏み込めないままだった。 「ぅ 」 「なんだ、高いところは苦手か」 「へ、平気ですっ」  鋭く耳元で叫ばれた声に大神は顔をしかめてシモンが指差した方とは違う方へと歩き出す。 「ち、違いますよ。向こうで  わっ」  軽く飛ぶような一歩に、シモンの言葉が途切れる。 「お前たちの怒りに心当たりがないわけじゃあない」 「!」 「だからと言って素直に受け止めてやる義理はない」  そう言うと大神は目の前の砂丘を仰ぎ見る。  雲ひとつない蒼天と砂と……視界にはそれだけしか入らなかった。  大神はそれらをぐるりと見渡し、背後からついてきている衛兵たちを確認してからシモンを砂の上に下ろす。 「セ セキはっ……あなたを信じていた! ヒートの熱に苦しんで、苦しんで……貴方にはわからないでしょ!」  激情が抑えきれなかったのか、じわりと金眼銀眼から雫が溢れる。 「わからん。俺はオメガじゃあないからな、どんな綺麗事を言おうとも理解することはないだろう」 「っ……」  無骨な手がぐい とシモンの頬を擦り上げ、溢れた涙を消し去ってしまう。 「俺ができるのは信じることだけだ」  そう言うと大神は興味をなくしたように背を向けて砂丘を歩き出す。  緩やかに続いていく砂の道はおだやかに見えて足を絡めるように崩れていく。一歩踏み出す重さに焦れるように大神の奥歯が鳴り……吹き付ける風に顔をしかめた瞬間、目の端に赤い衣が翻った。     END.    

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