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落ち穂拾い的な 大神の言葉 2
穏やかに言われ、セキは確かに喉の渇きを覚えていたのもあってそろりとそれに口をつけた。
甘さと柔らかな香り、それから水分がじわりと体に染み込んで、自分が随分と渇いていたんだとわかりほっと息を吐く。
「あの……オレ、どうしてここにいるんでしょう?」
「……」
クイスマは軽く開きかけた唇を一度引き結び直してから、宥めるようにセキの手に触れる。
相変わらずいい香りのする肌、傷ひとつなく綺麗に整えられて飾り立てられた指先に、セキは気後れして狼狽えた。
「あ、ぇと」
「貴方は、ミスター大神からルチャザへとおくられました」
「え? あ、オレを旅行に連れて行ってくれるのは大神さんしかいないですから、それはそうなんですけど……」
自分のすべてを支配している大神に振り回されることに対して、セキはちょっとした優越感を持っていた。
頭の先からつま先まで、大神が自分のすべてを動かしているんだと、くすぐったく思って笑みを零す。
「……いえ、貴方は、ミスター大神によって、王へ献上されました」
区切られる言葉に、手の中のグラスが滑り落ちそうになる。
へらりと笑っていた顔が、クイスマの言葉をもう一度理解し直すために歪んだ。
「 っ」
ぶる と震えが起こるのと同時に、かつてルチャザの王が自分を求めて大神と戦ったことを思い出す。
あの時、大神は血まみれになりながらも手放さないために王を倒して……
「そんなこと、大神さんはしません」
硬い声を聞き、クイスマは美しい柳眉をわずかに歪めた。
「大神さんはオレを手放したりしない。オレを誰かのものにするくらいなら、骨まで食べて、名前だけを弔うはずだ。だから、大神さんはそんなこと、しない」
淀みなく言い切ると、セキは「ごちそうさまでした」と言ってグラスをクイスマの方に押し付ける。
「セキ……」
「大神さんに連絡が取りたいです」
硬い声はそれ以外のことは何もしないと言外に伝えて……クイスマは戸惑いつつもトランシーバーのようなものをセキに差し出す。
「どうぞ。発信ボタンを押していただければ繋がります」
ディスプレイを見てそれが大神の電話番号であることを確認し、セキはそろりと発信ボタンを押した。
呼び出し音が鳴り…………けれど、大神は電話に出ることはなく、虚しくぷつりと切れる音だけが響く。
「も、もう一回」
セキは再び発信ボタンを押して……繰り返され続けるコールの音に不安げに眉間に皺を寄せる。
「……今は仕事中だから出られないだけです、だから、また後で貸してください」
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