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落ち穂拾い的な 大神の言葉 4

「内装は勝手に変えてくれ、俺でもいいしクイスマでもいいし、そこらにいる人でもいいし、誰かに言ったらすぐに変えてくれるから」 「え……いやいやいや! 客が勝手に内装変えちゃ駄目じゃない?」  セキが一目見ただけでわかるほど、自分にあてがわれた部屋は洗練されているのはもちろんのこと、考えるのが怖くなるくらい金がかかっているのがわかる。  目が肥えているわけではなかったそれでも高価とわかる内装を前に、セキは膝を抱えてベッドの上で過ごそうと心に決めたくらいだ。 「どうして? ここはセキの部屋なのに?」 「いや……だって……」  セキはしどろもどろと言葉を濁す。  お腹の大きい相手にどこまで強く言っていいのか測りかねて……   「――――ハジメの出産が終わるまではここにいるのだから、自由にしていい」  思わず背が伸びるような声だった。  別に脅すような声音でも命令口調でもないのに、上に君臨するものだと伝えてくる。  何かをされているわけではないのに圧迫感があって、セキは本能的にハジメの側へとにじりよった。 「とって食いはしないよ」 「怖がらせるなよ」  ハジメの窘めに、アルノリトは盛大に肩をすくめて大袈裟に顔をしかめてみせた。  まるで叱られてショックだと言わんばかりの態度に、ハジメは苦笑してアルノリトの手をとって宥める。  目の前の男はこの国の王だというのに、二人の仲睦まじい姿はただの恋人同士に見えて……セキはわずかに羨望を滲ませた目でそれを眺めた。  自分もあんなふうに撫でられて寄り添いたいなぁと、ちょっと唇を尖らせる。 「お前のフェロモンはオメガを怯えさせるんだよ、セキの前に出てくんな」  つっけんどんでひどい言葉だったけれど、アルノリトはくすぐったそうに笑ってハジメの額に口付けを落とす。 「わかったよ、我が命はやきもち焼きだからな」 「なっ……違う! ヤキモチなんかじゃない!」  言い返してはいるけれど、その様子はただ戯れているだけのように見える。  セキは何を見せられているのかと視線を逸らして小さくため息を吐いた。  星の並びの違う空を見上げて、自分自身が本当に異国にいるのだと実感してセキは溜め息を吐いた。  いつも外国に行く時は大神と一緒で、夜は空をぼんやり眺めるよりは大神にひっつくこと夢中で星を気にかけたことなんてない。 「あれ……は、何座かなぁ」  意外なところでロマンチックなところがある大神なら答えてくれるかもしれないと、ぼんやりと眺めながらやっぱり思考は大神に辿り着くのだと笑いを漏らした。  

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