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落ち穂拾い的な 大神の言葉 10
大神にしがみついて過ごして、いつも大神が熱を払ってくれる。
ただただ、大神に与えられる快感を拾い、辿り、味わえばいいだけの世界から放り出されて……
「……大神さん」
セキは大神の肌着の入った密封袋を少しだけ開けて鼻を突っ込む。
随分と薄れてしまった大神の匂いを探るようにすんすんと鼻を鳴らすが、納得がいかずにセキはさらに鼻先を奥へと進めた。
もともと揮発しやすいフェロモンだったが、この国……正確にはこの城に着いてからはますますその存在は希薄に感じられるようになって……
「王さまの臭いに押されてるっていうか……」
大神の、あのいつまで経っても馴染めない煙草の香りのようにかき消すのではなく、追いやられてしまっているような……そんな感覚を受けて、セキは隠す気のない溜め息を大袈裟に吐いた。
「 ────セキ。散歩に行くけどどうする?」
背後からかけられた声に、セキはソファから顔をあげる。
シモンに支えられて立つハジメのお腹はここに到着した時よりも大きくなっていた。その分体が思うように動かないようで、顔はどんよりと疲れ切っている。
「付き添うよ!」
勢いよくソファから起き上がるけど、果たして散歩とは? とセキは目の前の庭園を眺めた。
砂漠の城の一角、洋風の庭園は砂漠とは思えない緑豊か景色を描き、その一角に作られた東屋と呼ぶにはあまりもにも豪華な建物にセキはいる。そこは王族が過ごしている宮殿から少し距離のあるところにあり、ここにくるまででも十分散歩になる場所だった。
「ここまできたなら、ゆっくりお城の方に戻ろっか」
できるわけがないとわかっていながら、この白亜の城から逃げ出したくてここにいたのだと口に出せず、セキは観念してハジメの手をとる。
「いや、もうちょっと歩こうと思う」
シモンが何かを言い出す前にハジメは視線で黙らせると、セキの手を引いて歩き出した。
その方向は庭園の中へと続く道で……
「兄ちゃん? あんまり遠くはよくないんじゃ……」
「うーん……でもなぁ……」
異国の服を纏っていても、ハジメの背中は昔と変わらない。
弟や妹たちの世話を一手に引き受けて、更にはセキのことも気にかけて……懐かしい昔の記憶は古い傷跡と共にあるからか、セキはない交ぜになった複雑な思いでそれを見つめる。
「城にいたくないんだろ?」
「いや、ここも城だし」
引く手がひやりとした冷たさをしていることに気づき、セキは「帰ろう」と声をあげた。
王の伴侶や番、そんな部分をとりはらっても、セキにとってハジメは大事な人だ。
その体に万が一のことがあってはならない。
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