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落ち穂拾い的な 大神の言葉 11
「セキ。……いや、あか、お兄ちゃんはお前が心配なんだ」
「なん……今心配しなきゃなのはにいちゃんの体だろ⁉︎」
ひやりと胸の内を撫でていく冷たいものに、嫌な予感がしたセキは手を振り払おうとした。
「アルノリトが、またセキにちょっかいを出してたり、するか?」
シモンがハッと息を呑む気配がしたから、アルノリトがたびたび自分の傍に現れているのは一部だけの秘密なのだろう とセキは辺りをつける。
ハジメがどうして気づいたかについては、セキはハジメが昔から人を観察することが得意だったので、そういった部分から勘づいたのだろうと想像した。
砂漠にの空の下にある洋風庭園は、美しいのにどこかちぐはぐな印象を与える。
いくら素晴らしくても、洋風庭園に似合うのは砂漠の空ではないのだと、セキは眺めて気が付いていた。
無理に表面だけ取り繕っても、決定的な違和感は拭いきれない。
「なーんか、変な感じがするんだ」
ハジメの言葉は、ただ自分のカンがそう告げているだけの話で、はっきりとした証拠があるわけじゃないと伝えてくる。
ここでセキは、「もうすぐ出産だから不安になってるだけじゃない?」と笑い飛ばすことができた。
できる……いや、しなくてはいけない立場だった。
ハジメから受けた恩を忘れてはいない。
ヒステリックな母とその愛人たちに蔑まれる日々は肉体だけでなく精神も蝕んで、その地獄から逃げ出そうという気力も削られ、搾取されるだけの存在に成り下がるのを縁で押し留めてくれていたのはハジメだったから……
これから子供を産もうとする恩人が心安らかであるように、作った笑顔を貼り付けて「そんなことないよ! 気を使っては貰えてるけどね」って言えばいいだけだった。
「 ――――ヒートがもうすぐか、尋ねられたよ」
声は低く、まるで敵に話しかけるようにかすれていた。
振り返らない背中は以前と変わらないまま、近所のお兄ちゃんだったのに異国の服のせいか他人に見える。
ほんの一言で、関係が変わってしまったのだと理解して、セキは手を振り払おうとした。
今、兄と慕った人の中での自分の立ち位置を思い、それでも手を繋いでいられるほど神経は図太くない。
「どーすっかなぁ。一発殴ってから日本帰るかぁ」
セキから見えるのは背中ばかりで、ハジメの表情はわからなかったが声は天気の良さを語るようなさっぱりとしたものだ。
「にいちゃん」
「どうせ、遅かれ早かれだったんだよなぁ」
「にいちゃんっ!」
「ずっと側室って言われてたの……突っぱねてくれてたんだけどなぁ」
「にいちゃんっ‼︎」
怒鳴るように声をあげて、やっとハジメは振り向いた。
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