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落ち穂拾い的な 大神の言葉 13
「狂わないよ、オレは絶対に!」
セキは大神が自分に向けて言った「耐えろ」の言葉を思い出し、ようやく合点の言った気持ちでグッと体を伸ばす。
大神が言っていたのはこれだ! と、パズルのピースがハマるような気持ちの良さに、セキは肺に息をいっぱい吸い込んで深呼吸をする。そうすると、ここ数日、アルノリトを避けるために潜めていたせいで苦しかった呼吸が軽くなって、くだらないものに囚われていたんだって思えた。
「だから、にーちゃんはもう、気にしないで」
セキを見るハジメの顔がグッと歪んで……けれどその眉間は安堵のためか穏やかだ。
「分かった、気にしな………………――――――っ」
不自然な言葉の途切れ。
歪められた表情。
セキはステップを踏むように歩き出し……そのことを脳裏で繰り返した瞬間振り返り、ハジメへと駆け寄る。
膝が地面に擦れる痛みなんて気にならなかった。
なぜなら……ハジメの足元に広がる水たまりに……
「 破水、してる」
セキがハジメを抱えて移動できたのは東屋までだった。
途中でシモンが二人の様子のおかしさに気づき、クイスマたちに連絡を取ろうとして……この場所が城の中とは建物から随分と離れていることを思い出して顔を青くする。
「シモン! にいちゃんをソファに寝かせて!」
「けれどここは東家です!」
「じゃあ芝生の方がいいか?」
「――――っ」
シモンが悩んだのは一瞬だけだった。
セキを手伝ってハジメを東家のソファに寝かせると、大慌てでクイスマたちに電話をかけ始める。
「 ぅ 」
膝から崩れ落ちて地面の上で動けなくなっていたハジメが初めてこぼした声だった。
「ハジメにいちゃんっ⁉︎ すぐにお医者さんたちがきてくれるからね!」
いつかは自分の役にも立つし……と冗談めかしながら読んでいた出産育児本の内容を思い出しながら、セキはハジメに楽な体勢をとらせると腰をさする。
「 きゅう、に、い、いた っ」
一瞬だけ言葉をこぼし、ハジメはまた歯を食いしばり始める。
「ど……言うこと? 陣痛って最初はもっと間隔が広いんだよね?」
なのに、先ほどのハジメの様子を見ていると、陣痛は絶え間なく襲ってきているんじゃないのかって……そっと触れたハジメの腹部は驚くほど硬くなり、想像できないほどの強さで収縮しているんだってセキに教える。
「シモンっ! にいちゃん、お城まで持たないかもしれない!」
「え……えぇ⁉︎」
もしかしたら、ここにくるまでにも陣痛があったのかもしれない と、セキはハジメの性格を思い出しながら思った。
でも、今言っておかないと出産でバタバタしている最中にセキに発情期が来たら……と考えてしまったんじゃないだろうかと、セキは顔を歪めた。
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