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落ち穂拾い的な 大神の言葉 14

「に……にいちゃんのばか……心配するのはオレのことじゃないだろ」  呻くように言ったセキに、ハジメは視線は向けたものの呻き声すら出せず…… 「シモン! そっちのクッション全部集めて!」  悲鳴にならない悲鳴をあげて硬直するハジメに縋りつかれ、セキは息を詰まらせる。  自分の手を握る力の強さは、今まで自分を殴りつけてきたような力強さとも、大神のように有無を言わさない強さとも違う、必死に這いあがろうとする人間が持つようなそんな力だった。 「 ――――――っ  っ、  」  呼吸すらできているのかできていないのかわからず……さらっと読んでおけばいいだろう とたかを括って目を通していた本の表紙が、セキの脳裏を通り過ぎていく。  その表紙の中に何が書かれていたか……読んだはずなのに頭の中は真っ白だった。  腕を掴む痛みと、声すら出せない痛み、そして何もできない自分はちっぽけだと痛感する絶望と…… 「にいちゃん! 目を開けてっ! しっかり目を開けて!」 「  っ、ぅ   」  力が入りすぎて震え出す手を握り返し、セキはサッと辺りを見回した。  真っ青になって震えているシモンと自分と……すぐに人が駆けつけるだろうけれど、だからと言ってその数分が無事とは限らない。  セキはシモンにハジメの手を渡すと、覚悟を決めるためにギュッと拳を作った。 「にいちゃん! ごめんねっ」  人の服の裾を捲るなんて、普通ならしない。  けれどこの時のセキは一瞬の迷いもなく異国の服の裾を乱し、ハジメの足の間に身を乗り出した。  ひゅう と喉が鳴る。 「  ぁ、か」  苦しさの下から漏らされた言葉は不安を滲ませて、否応なくセキの思考を現実に引き戻す。 「だ、 ……大丈夫! すぐに先生もくるし! ここはさっきまでオレが温めてたソファだし!」 「あ゙っあ゙あ゙あ゙っ」 「全然平気っ! シモンが手を握ってくれてるだろ?」  大きく、はっきりと、明るい声で告げながら、セキは自分自身が震えで崩れ落ちてしまうんじゃないかと…… 「っ、にいちゃん! 今、頭が出てきてる! だから、頑張って!」 「っ⁉︎ は は……ぁ゙……っぅあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!」 「大丈夫! オレ、ちゃんと勉強したから! 全然っ平気だって!」  邪魔になる服の裾を取りはらい、力が抜けて倒れそうになる足を支える。  繰り返し上がる悲鳴とも呻き声とも取れる叫びに、セキは泣き出しそうになりながら歯を食いしばった。 「い 痛くなったらっいきんで!」 「あ゙っ  っ――あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ……ぁー……」  絶叫と、掠れるような悲鳴と、セキは自分自身が何を口走っているのか分かってはいなかった。けれど、自分が声をかけ続ければハジメの役に立てるんだと信じて…… 「  っゆっくり息して! あ……頭、出たから  っ」 「ゃ や……いき、いきみたい……」 「ゆっくり、ゆっくりだよ……もう大丈夫だから…………」  そう言いつつ、どうしてだか予感があった。  セキは自分の服を急いで脱ぐと、飾りの付いていない柔らかな肌に触れる部分を探して構えて……

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