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落ち穂拾い的な 大神の言葉 18
着替えは持たなくても良かった。ここにきた時に持っていた大神から無理やり剥がして持ってきた肌着さえあればそれでいい……と、セキはそれだけを持って飛び出そうとする。
「……お金、と、パスポート……」
海外へは幾度もいったことはあったが、それはすべて大神の手配であり、セキ一人で行動しないように護衛がつけられていた。
セキは、飛行機でここにきたことはわかっていたが、それだけしかわからなかった。
この国のどこに空港があって、そこまでどれほどの距離があり、どのように行けばいいのか、空港に着いたところでどうやって航空券を買えばいいのかわからなかったし、すぐに飛行機に乗り込めるのかどうかも知らない。
かろうじてパスポートが必要だと言うことはわかるが……
「オレのパスポート、どこ?」
スーツケースに入った時には大神の肌着以外は何も持ってはいなかった。
「たいしかん? に、行けばいいんだっけ?」
もたもたしてはいられない。
本来ならハジメに一言言ってから姿をくらますべきだったのかもしれないが、そんなことをしたらハジメのことだ……理由に勘付いてしまうに違いなかった。
発情期に入る前に、速やかに大神の元へ帰らなければならない。
セキはその思いだけを持って、迷路のような城を飛び出そうとし……結局出口が見つからずに木の上にいる。
「しずるのお師匠が、迷ったら上に登れって言ってたしね!」
木のあちこちに服を引っ掛け、皮膚を引っ掛けしたけれど構わなかった。セキはできるだけ高い木を選んで登り、間近で見る大きなヤシの実にちょっと感動をしながら辺りを見渡した。
美しい砂漠が見える。
サラサラとした均一な砂でできている砂漠は珍しいのだと説明を受けたこともあったが、広大な砂漠は遠くに視線をやっても同じ砂でできており、それ以外のイメージを寄せ付けなかった。
セキは昔聞いた話は自分を揶揄うためのものだったんだろうと結論づけて小さく笑う。
美しい金の稜線、夕陽に赤銅色の寂しい色を滲ませて震える太陽を飲み込もうとしている。
「大神さん……」
胸を引っ掻くような寂寥感。
懐かしい、戻ってきたのだと心が喜んで、自然と涙が溢れ出す。
人類がここから始まり、そして地に満ちたのだと言われても理解できる瞬間だった。
この国でかつて、セキはすべてを捨ててここで一緒に暮らそうと告げたことがある。
真剣に受け取ってはくれなかったが、だからと言って大神はその言葉を馬鹿にはせず、真剣にその未来を思い描いた。
不思議なノスタルジー。
バース性の人間を惹きつけてやまない土地だ。
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