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落ち穂拾い的な 大神の言葉 19

「セキくん」  名前を呼ばれて、自然と溢れ出ていた涙を拭って下を見ると、瀬能がいつも通りの胡散臭そうな笑顔で見上げていた。  夕日に照らされているために濃い影の中落ち込み、瀬能は正体不明の影法師のように見える。 「降りておいで。ご飯だよ」  笑いながら自分を呼ぶこの医師は、王の意向をどこまで知っているのだろうかとセキは睨むようにして見下ろす。  瀬能の笑みには隙がなく、まるで遊びに夢中で夕飯の時間を忘れた子どもを見守っているだけのようだった。 「先生! オレ、このまま大神さんのところに帰りたいんだけど!」 「そんな高いところに登って、怖くないの?」  自分の問いの答えではない返事が返り、セキは顔をしかめる。  しかも瀬能は「怖くないのか」と尋ねた。「危ない」ではない…… 「 ――――――!」  気づくよりも一瞬、行動が遅かった。  サッと視界に広がった網と伸びてきた手、いつの間に傍まで寄ってきていたのか、特殊装備をつけた兵士たちがセキを取り囲んで木の下へと下ろしていく。  セキは手足を突っぱねて抵抗するも網は捉えどころがなく、蹴っても引っ張っても手応えらしい手応えはない。  床に広げられた高級なカーペットの上にそっと下ろされたセキは、「先生っ!」と噛み付かんばかりの声を張り上げる。 「ご飯できてるって」  相変わらず通じない話に、カッと頭に血が上るを感じながらセキは「帰るって言いました!」と腹の底から叫び、近くにいる兵士を押し除けようとして網の中で絡まっては無様に倒た。  もがけばもがくほど絡んだ網が食い込み、ミノムシのような形になって……それでも、セキは瀬能を睨みつける。 「どうしてこんなことするんですか!」  少なくとも瀬能は味方に区分していい存在だとセキは信じていた。  「帰る」って言うと、「一人で帰らせたら大神くんに怒られそうだしなぁ」って言いながら一緒に帰ろうとしてくれたりするかもしれないと……  睨みつけるセキの目の前で、瀬能は指先でクルクルと一つの鍵を回してみせる。 「ここのさぁ、禁書が読みたくて」  チリン と音を鳴らしながら突き出されたその鍵には髑髏の意匠が施されており、その鍵があまり好意的ではない場所を開けるためのものではないと教えた。 「見たことのないバース性の本、読みたいんだよね」 「オレ  オレを、売ったんですか⁉︎」 「人身売買は犯罪だよ? ましてやこの国でオメガを買ったらそれだけで死刑だ」  瀬能はははは と軽快に笑ってみせるけれど、セキは愕然とした気持ちを抱えるしかできない。 「大神さんはこのことを、知っているんですか?」  指先から鍵を消して、瀬能はふっと笑った。

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