86 / 86
落ち穂拾い的な 大神の言葉 20
「それ、君に関係あるかな?」
「オレに関することだから関係あるよ!」
セキを見下ろす瀬能目は冷え冷えとしていて、まるでモルモットを見ているようだった。
「君はすぐに逃亡しようとするから気をつけるようにって助言したのは大神くんだよ」
「……」
セキの返事も待たず、瀬能は再び指先で鍵を弄びながら背中を向けて去っていった。
豪華な鳥籠のようだった。
セキのために与えられた部屋ではなく、新たに連れてこられた部屋は地下だ。
下へ向かう階段の前に立たされた時、セキは薄暗く湿気のある地下牢を思い描いたけれど、入れられた先はその考えを完全に裏切るものだった。
空が、青い。
それが描かれた絵だとセキが理解するまでに随分と時間がかかった。
よろけるように銀線で編み込まれた扉をくぐり、呆然と辺りを見回して植えられている緑の木々が本物なのかを確認する。
部屋の中……それも地下だというのに空が見える奇妙さに眩暈を起こしそうになると、カイが傍に駆け寄ってセキを支えた。
「大丈夫か?」
「 ん、……」
体は何も問題はなかった。
けれど……地上の風景を模した室内を見回し、セキは居心地悪く身をすくめる。
家具も揃っている室内にいるはずなのに野外に放り出されたような、奇妙なチグハグさが神経を逆撫でるようだった。
「ここは?」
セキの問いにカイも答えられないようだ。
セキと同じように周りを見渡して困惑している。
「 ――――セキには、当分こちらで過ごしていただきます」
部屋の中央で立ち尽くしている二人の背中から声をかけたのはクイスマだ。
美しい紫水晶の瞳に空を映してから、「カイはここでセキの世話をするように」と淡々とした言葉で告げる。
「ど、どういうこと……」
「ただいま城は、王子がお生まれになったことで沸き立っておりますので」
水を差すような真似はするな とセキは読み取る。
「それなら、オレを返してください! それだけで、もう問題はなくなるから 」
クイスマは部屋を見渡し、項垂れると躊躇いを残しながらも扉を閉めて鍵を差し込んだ。
「クイスマさんっ!」
可憐な花を銀線で表現した扉は華奢な見た目に反し、セキが拳を振り下ろしてもびくともしない。
銀の隙間から見えるクイスマに向かってセキはもう一度大きく名前を呼んだけれど、クイスマはその手を動かすことはなかった。
「セキ、少しだけ我慢してください」
「なん……なんですかっそれはっ! ここを開けてくれたらそれでいいんです! それだけでいいから!」
「力ずくの行為は私も本意ではありません、ですから……」
わずかな沈黙の後、「待っててください」と言い切る。
ともだちにシェアしよう!

