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落ち穂拾い的な 大神の言葉 21
銀で編まれた花よりももっと華やかな指先が隙間から伸ばされ、セキの手にそっと触れた。
滑らかな大理石でできたような指はひんやりと冷たく、安心とは程遠い、不安を煽る温度だ。
クイスマは重ねて言葉を紡ぐことはしないまま、逃げるように踵を返して行ってしまった。
「……そんな……」
地上への登り階段からは重々しく扉が閉められ、錠を下ろす音が無情に響く。
セキは扉の隙間に指先をこじいれては引っ張り、どうにうもならないとわかると他の隙間を探して行手を阻む銀の壁を探り始める。
「セキ、そんなことしても無駄だよ」
「っ……わかんないよ! 諦めないで探さないと……」
そうしなければ未来は決まってしまう。
セキは広く円形の部屋をぐるりと回った後、再び扉の前に来る。
「ちょっとそこどいて!」
そういうとカイが座っていた椅子を取り上げて振りかぶった。
「セキっ!」
あまりにも躊躇のない動きに、カイが止める間もなく椅子が扉へと叩きつけられる。
匠の手で繊細な細工の施された椅子は金属に負けてあっさりとへし折れたけれど、セキは怯まずにもう一度それを振りかぶった。
壊れた椅子を投げつけても……扉はびくともしない。
「 ――――っ」
飛び散った木片を蹴散らすと今度は足で蹴りつけるが、それもあっさりと跳ね返されてしまい、セキはよろけて尻もちをつく。
「おい、ケガするだろ? ちょっと落ち着けって」
カイが木片を払いながらセキに駆け寄ったが、セキは乱暴に振り払って立ち上がると拳を振り上げて扉へと叩きつけた。
「うるさい! 外に出せないなら黙ってて!」
「無駄なことに体力使うなって言ってんだ!」
怒鳴り返されてセキははっと目を見開いたが……視線はこの部屋のほころびを探すのを諦めてはいない。
カイは隠しもしない溜息を吐くと、爪先でゴミになってしまった椅子を端に避けていく。
「ここは鉄壁だと思うぞ? 暴れていざって時の体力を削るくらいなら、じっとして温存しといたほうが賢いだろ?」
対になっている椅子を引きずってきてベッドの傍に腰かける。
「ほら。椅子はなくなっちまったからな、お前はベッドに座れ! Silentu!! Bastardo!」
「っ⁉」
言葉はわからなくともニュアンスは伝わってくる。
セキはびっくりして飛び上がると、深い緑色の両目をぱちぱちとさせながら口を押えているカイの方へと近寄った。
黙っていれば陶製の人形のような姿だ。
燃えるような赤髪とそれに負けない輝きを放つ緑の双眸、それらを引き立てる気の強そうな美貌から出るにはあまりにもな言葉に、セキは勢いを削がれてよろけるようにしてベッドに身を投げ出す。
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