90 / 114
落ち穂拾い的な 大神の言葉 24
「例えばさ、王様の番に手を出して孕ませちゃったりしたのを許してもらえたりする」
「ケチなんて思ってごめん」
「? まぁ……そんな感じに、一つだけ許しをもらえるのさ」
カイはセキの手を引っ張るとぎゅうっと腕の中に抱きしめる。
体格差がほぼ同じなため、いつも大神にされるような覆い被さって来ない感覚にセキはパチリと目を瞬かせた。
不安だった。
まったく安心できない。
どこもかしこもむき出しで、抱きしめられているのにポツンと独りでいるような気分になり、セキはギュッと胸を締め付けられて息をつめた。
自分一人だけが追いかけて、好きなのだと言っているとばかり思っていたがそうではなかったのかもしれない と。
「昔、王妃と不義密通したって恋人を信じられずに処刑してしまった王さまが定めたんだって」
「じゃあ……今すぐ大神さんを呼んできてって言っても叶えてもらえるの?」
「もちろん」
とんとんとあやすように背中を叩かれて、セキは今日一日中、城の中を駆けずり回って疲れていたことを思い出す。
一定のリズムで叩かれて、呼吸がだんだんと整い、緩やかになっていく。
「会いたいか?」
「……会いたいよ」
「わかった」
「でも、それってカイのお願いを使うんでしょ?」
背中を叩くリズムは変わらず、カイからは小さな感情の揺れすら見つからなかった。
「大神さんはさぁ、オレに耐えろって言ったんだ」
「それは、この仕打ちを耐えろってことか? それとも……」
「ヒートを耐え抜ってことだと思う」
ビクッと跳ねた手にセキが驚く。見上げたカイの表情がみるみる険しくなって……
「あいつは、ここがどんなところかわかってねぇのか!」
怒鳴り声は鼓膜をビリビリと震わせて痛みを感じさせるほど強く、セキは思わずサッと耳を塞いでうずくまった。
ついさっきまで、眠らせようとしていた雰囲気がかき消えて、怒りにカイの瞳がギラギラと輝きを放つ。
それを美しい……と、セキは他人事のように思う。
「ここはアルファが支配する国だ! しかもっ運命の番とつがい続けた化け物みたいな力を持ったアルファの! あいつは王さまに会ってわかってるはずなんだ! 王のフェロモンがどう言ったものか……それに抗えるオメガなんかいないってことも!」
その上で……耐えろ、と?
「いやいやいやいや! 違う、やっぱりそっちじゃない。王へ売られて番になることを耐えろ だろ!」
大きな声で言うけれど、セキは取り合わない笑顔で曖昧に微笑み返した。
瀬能はクルクルと鍵を回しては弄ぶ。
まるでその鍵がそう言った役目を背負って生まれてきたかのように、瀬能はそれをおもちゃにしていた。
ともだちにシェアしよう!

