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落ち穂拾い的な 大神の言葉 25

 髑髏の飾りのついたそれを懐にしまい、瀬能は王に向き直る。 「それで陛下、いかがなさいますか?」  国王に向かい合っているというのに瀬能の態度はいつもと変わらない。多少言葉こそ丁寧だったが逆に無礼さを感じさせるようだった。  アルノリトは先ほど鍵が消えた内ポケットを視線で追い、気だるげに手を差し出した。  言葉は必要ないと思ったのか、口を開かないままだ。 「陛下、欲しいものはきちんと言葉にしないと相手に伝わりませんよ」  その物言いは穏やかで慈愛に満ち、言葉をよく理解するものが聞いたなら小さな子供に言い聞かせるような言葉だと気づいただろう。  けれど王はそれに気づかなかった。  言葉のニュアンスになど構ってはいられないと、酒で潤う唇を開く。 「鍵を出すといい」 「陛下、こちらは私の正当な報酬でございます」  ニコニコと胡散臭い笑顔のまま、そっと胸に手を立てる様子はどこか恋する乙女のようだ。  アルノリトは不愉快を隠さない表情で伸ばしたままの手を握り込む。 「まさかそれを望むとはな」 「ええ。こんな場所まであるだなんて……こちらにはあとどれだけの秘密があるのか、楽しみですね」 「私も知らない秘密の部屋も見つけてしまいそうだな」  王の言葉に瀬能は「ははは」と軽快に笑いを返す。 「そうですね、自信はありますよ」 「…………ドクター瀬能は、一度、痛い目を見ないと物事が考えられない気性なのか?」 「いえいえ、陛下の取り返しがつかなくなってからやっと反省なさる気性に比べたらかわいいものです」  穏やかに歳を重ねて来たのがわかる目尻の皺を深くして、瀬能は余裕の笑みを浮かべてにっこりと微笑んだ。 「それとも、力ずくて来てみますか?」  大神ですら、アルノリトに関してはもう少し礼儀をわきまえていたが、瀬能にはそんな敬おうという感情は一切見つけることができない。 「あなた方で僕をどうにかできるなら。試してみますか?」  広げられた手は、同年代の男に比べたら肉厚でがっしりとしているという印象を受けるが、兵士に取り囲まれて対抗できるほどではない。 「……」 「大神くんのように後ろ盾のない哀れな年寄りだよ?」 「ミスター大神自身が、あなたの後ろ盾ではないのか?」 「あはは、それでも構わないけれど、彼は出資者なだけで後ろ盾ではないのですよ」  大袈裟に頭を下げながら瀬能はアルノリトの盃に酒を足した。  グラスの中で揺れる赤ワインはアルノリトの瞳の色にも似ている。 「大神くんの金主とことを構える気は?」  アルノリトは盃を持ち上げ、自嘲気味に唇の端を歪めた。

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