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落ち穂拾い的な 大神の言葉 26

「あなたと話していると迷宮に落とされた気がする」 「迷宮ですか?」 「地下にある、いつか放り込んでやろう…………はぁ」    アルノリトは気だるげに眉間に皺を寄せると、後ろのクッションへと深く沈み込む。 「陛下、老婆心から言わせていただきますと、夫婦円満の秘訣は誠実さですよ」 「老婆? あなたは老爺だろう?」 「おせっかいという意味です。秘密の決闘で決着がついたのに、それを再燃させる無様な姿を見せて番さまはどう思われますか……」 「秘密だから揉み消すのも容易いのだと、ドクター瀬能は気づくべきだ」  気を取り直して笑うアルノリトに、瀬能は冷ややかな視線を向けた。 「番さまも決闘のことはご存知ですけどね」 「そ   れは、なんとでもなる」 「その考え、危険ですよ? 番を下に見る意見は、我が国では最も忌まれる行為です」 「番を下になど見ていない!」  アルノリトの表情は真剣で、陰すら見えないその感情の発露は信用に値するもだろうと瀬能は思う。  けれど、異国で、ましてやバース性まで違い、特殊な環境で育ったアルノリトの考え方の根底にはナチュラルにα以外を見下す流れがあるのは確かだった。  これはもう遺伝子レベルと言っても過言ではない と、瀬能は見ていた。  王として生まれてくるべくして生まれた存在だ。  繰り返し繰り返し、運命と結ばれ続けて『α』としての濃度を最高に高めた最高傑作品。 「ましてや番さまは心をお読みになれるようです、もし後ろ暗いこと……」  いや、それをそう思っていない場合はどうなるのか と、瀬能は言葉を切った。 「番さまにはっきりと言えないことをするべきではありません」 「……」 「ですから、私のこれもそんな陛下の手助けの一助というだけですので」 「…………あなたの意図がわからないまま、香籠りの部屋を与えてしまうなんてな」 「この国、ましてや王のそばに使えるオメガたちが発情の際にどこへ避難するのか……長い間の疑問でした」  そういうと瀬能は髑髏のついた鍵を耳の穴から取り出して見せる。  しずるやセキはこれをすると小さな子どものようにはしゃいでくれるが、アルノリトは流石に落ち着いたものだった。  鈍色の光を反射する鍵に視線を落として難しそうな顔をしている。 「まるで私ばかりが悪人のように言われるな」 「愛は障害がある方が、燃え上がるものですから」 「だが、ミスター大神が告げたのだ、『耐えられぬようなら、その時は頼む』 と」  赤い瞳がギラリと鋭い光を放ったのを瀬能は見なかったことにした。 「セキが手に入れば莫大な幸福が約束される!」 「番さまと引き換えにですがね」 「  っ」 「それを許す人ではないでしょう? いえ、口では許すでしょう。けれど本音で話すことのできない言葉は二人の間に横たわり続けることになりますよ」  少し脅かすような重々しい言葉だ。

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