98 / 113

落ち穂拾い的な 大神の言葉 32

「とはいえ……僕もここまで酷いとは思わなかったけどねぇ」 「………………大神は? 大神はっ! どこにいるんだ!」  カイは弾かれたように瀬能につかみかかるが、急激な動きに目が回ったのかよろめいて再び床にへたり込む。  かつては透明感がありながらも血色の良い肌の色がくすみ、睡眠不足と疲れからどんよりと暗い色が漂っていた。  セキに引っ掻かれた傷からは血が滲み、宝石のようだった容姿はまではまるで路地裏の野良猫のようだ。 「君も少し休むべきだ。傷の手当もしよう」 「俺はっ全然っ…………それよりも大神を呼んで! そうすればっ大神が相手をすればすぐに治るんだろ⁉︎」  瀬能は少し困った顔で肩をすくめてみせただけで、明確な返事を返さなかった。 「大神は、こうなるって知ってて、セキをここに連れてきたのか? そうだとしたら……」 「仕方がなかったんだよ。研究所の中ですら、スパいがいて、入れ替わるのも連れ出すのも一苦労だったんだ。…………海外で、セキくんを安全に匿えるところはここしか思いつかなかったんだ」 「それは答えじゃないぞ! 俺が大神がこうなるって知ってて、セキ一人をおいて行ったのかって聞いてるんだ! ここなら大神ごと匿うことだってできた! なんで   」  大声で喚き出したカイの唇に人差し指を当て、ベッドに運ばれるセキの方に視線をやった瀬能は、カイの隣に腰を下ろして膝を抱えるような態度をとる。 「大神くんは、過去の因縁と決着をつけてるよ」 「それは……自分のオメガを苦しませて、陛下の番にされるかもしれないリスクを冒してまですることか?」 「うん、大事なオメガのためにね」  その瞬間、カイは大神にセキ以外にも番か……もしくは番にしようとしているΩがいるんだと知る。 「大神くんは、そのオメガを信じてもらいたいんだ」  穏やかに言うけれど、カイの表情はもうすでに嫌悪感を隠せないものになっている。  これだけセキが苦しみ、血を流してまで求めていると言うのに……肝心の大神は………… 「俺っ……陛下に大神を罰してもらうっ」  自分がこの王宮から出ていくための切符だったけれど、この瞬間のカイにとってはどうでもいいことだった。 「大神のっ首を切ってセキに献上させてやる!」  細い指を握り込んで叫んだカイの唇を瀬能は大慌てで押さえ、サッとベッドの方を振り返る。  消毒液のために色の変わった指先がもがくように中に伸ばされて、結局何も掴めないままに落ちた。  けれど「大神さん、大神さん」と繰り返し名前を呼ぶ声が漏れ聞こえてくる。      

ともだちにシェアしよう!