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落ち穂拾い的な 大神の言葉 32
「とはいえ……僕もここまで酷いとは思わなかったけどねぇ」
「………………大神は? 大神はっ! どこにいるんだ!」
カイは弾かれたように瀬能につかみかかるが、急激な動きに目が回ったのかよろめいて再び床にへたり込む。
かつては透明感がありながらも血色の良い肌の色がくすみ、睡眠不足と疲れからどんよりと暗い色が漂っていた。
セキに引っ掻かれた傷からは血が滲み、宝石のようだった容姿はまではまるで路地裏の野良猫のようだ。
「君も少し休むべきだ。傷の手当もしよう」
「俺はっ全然っ…………それよりも大神を呼んで! そうすればっ大神が相手をすればすぐに治るんだろ⁉︎」
瀬能は少し困った顔で肩をすくめてみせただけで、明確な返事を返さなかった。
「大神は、こうなるって知ってて、セキをここに連れてきたのか? そうだとしたら……」
「仕方がなかったんだよ。研究所の中ですら、スパいがいて、入れ替わるのも連れ出すのも一苦労だったんだ。…………海外で、セキくんを安全に匿えるところはここしか思いつかなかったんだ」
「それは答えじゃないぞ! 俺が大神がこうなるって知ってて、セキ一人をおいて行ったのかって聞いてるんだ! ここなら大神ごと匿うことだってできた! なんで 」
大声で喚き出したカイの唇に人差し指を当て、ベッドに運ばれるセキの方に視線をやった瀬能は、カイの隣に腰を下ろして膝を抱えるような態度をとる。
「大神くんは、過去の因縁と決着をつけてるよ」
「それは……自分のオメガを苦しませて、陛下の番にされるかもしれないリスクを冒してまですることか?」
「うん、大事なオメガのためにね」
その瞬間、カイは大神にセキ以外にも番か……もしくは番にしようとしているΩがいるんだと知る。
「大神くんは、そのオメガを信じてもらいたいんだ」
穏やかに言うけれど、カイの表情はもうすでに嫌悪感を隠せないものになっている。
これだけセキが苦しみ、血を流してまで求めていると言うのに……肝心の大神は…………
「俺っ……陛下に大神を罰してもらうっ」
自分がこの王宮から出ていくための切符だったけれど、この瞬間のカイにとってはどうでもいいことだった。
「大神のっ首を切ってセキに献上させてやる!」
細い指を握り込んで叫んだカイの唇を瀬能は大慌てで押さえ、サッとベッドの方を振り返る。
消毒液のために色の変わった指先がもがくように中に伸ばされて、結局何も掴めないままに落ちた。
けれど「大神さん、大神さん」と繰り返し名前を呼ぶ声が漏れ聞こえてくる。
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