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落ち穂拾い的な 大神の言葉 34

 抵抗と呼ぶにはあまりにもお粗末なそれを見て、アルノリトは嘲笑うようなことはしなかった。 「さぁ、首を出せ。この国ではヒートの苦しむオメガを救うのも王の役目なのだ」  拳が届かなかったのを最後に、セキはぐったりと項垂れたままだ。  その沈黙を了承と受け取ったのか、アルノリトはセキの体を床へと放り出し…… 「すぐに済ます。それでこの発情も楽になるだろう」  爪のなくなった手を痛々しげに見下ろしたアルノリトはネックガードの鍵を差し込もうとし……手の中にあるのはストラップだけだと言うことに気づく。  本来、紐の先端についているはずの硬質な細長い棒はかき消えていた。 「  ?」  「王さま」とセキが硬い声で問いかける。 「オレ……大神さんはオレを手放すぐらいなら全部を腹に収めて名前だけを弔ってくれるだろうと言いました」 「ああ」 「あの人は、オレを食べていっぱいになった腹を抱えながら名前を入れた墓を守り続けてくれる」 「………………」 「大神さんは耐えろと言いました。だから、耐えます」  妙にはっきりとした口調だ とアルノリトが疑問に思った瞬間、セキを掴んでいた手に激痛が走った。  何かで深く刺し貫かれた感触に、アルノリトは思わず呻き声を上げて後ずさる。  床に放り出されたセキの手は血に濡れており…… 「は  はは、うまくい  った」  そこに握られているのは王が持っていたはずの鍵の先端だった。  それが真っ赤に染まり、同じ色の雫を滴らせている。 「  ――――――っ!」  思わず身を折って腕を庇うアルノリトを、床の上からもう一度嘲笑い、セキは真っ赤な鍵を握り込む。  憔悴しきって喋ることすら苦しげだと言うのに……セキはその鍵を喉元へと押し込んだ。 「俺は耐える。もしそれに  必要なら、死んででも」  王に向けた笑顔は満面に広がるものだった。 「大神さん以外に触られるなんて絶対に嫌だぁぁぁぁ!」  それがセキのこぼした最期の願いだった……けれど、力を込めようとした手はアルノリトの手にしっかりと握り込まれてしまっていた。 「あ……ぁ……」 「拘束を!」 「や  っ! 死なせて! やだ! 大神さん以外の番になるならっ! し  」  「死なせて」の言葉はでないまま押さえつけられ、その言葉は口の中で溶けていくしかなかった。  衛兵たちに取り押さえられ、身動きすら許されないセキは唯一の反抗とばかりにアルノリトを睨み上げたが、それも結局、王が覆い被さってくる行動に封じられて無駄となった。  ハジメには赤い砂漠に見えているらしい景色を眺め、セキは涙が乾いて痛む頬を感じながらもそこから離れられずにいる。

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