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落ち穂拾い的な 大神の言葉 35

「 ――――セキ!」  風に紛れて届いた声はあれほど待ち望んたものだったのに、セキははっと身をこわばらせた。  目前のどこまでも続きそうに見える方向ではなく背後からだ と悟った瞬間、後ろを身もせずに駆け出す。  細かな粒子の砂に足を取られて倒れ込みそうになっても、セキはなんとか踏ん張って駆け出そうとし……強い風に煽られて日除に被っていた真紅の布が空へと舞い上がった。 「    あ」  ぽつん と漏れた声はちっぽけで、空の青さの中に風に運ばれていって消える。  一瞬で見えなくなった赤い布を反射的に探そうとした瞬間、大きな塊が覆い被さる勢いのままにセキを砂へと押し倒した。 「わ ぺっ……っ」  勢いでざざ……と体が滑り、跳ね上がった砂が顔に飛び散る。  セキは口の中に入った砂を慌てて吐き出し、拭おうとして……再び砂へと体を押し付けられてしまう。 「ぅあ  ぐぇっ」  喉が締まった衝撃で奇妙な声が漏れたが、手は容赦ないまま喉に巻かれた包帯を引きちぎろうと力を込めてくる。 「んっんっ! んーっ!」  ポカポカと小さな拳で叩かれ……そこでやっと、大神は手の力を緩める。ほっと息を吐いたセキは砂漠に似合わない重苦しいスーツ姿の男を見つめ返し、細い腕を伸ばしてしがみつく。 「大神さん! 大神さんっ大神さんっ! 大神さんっ!」  必死に名前を呼び、愛情を示すも大神からの返事はなく……厳しい顔立ちをさらに険しくさせてセキを睨みつけている。 「お……がみ さ  オレ、あの   」  久しぶりに会えた愛しい相手のはずなのに、セキは笑顔を凍り付かせて身をすくめた。  そのままサッと視線を逸らして……  逃げ道を探そうとするセキの態度に、大神の太い腕が振り下ろされて砂の上へと縫い止める。  絡む指の熱さは飛び上がりそうなほどで、照りつける日差しよりも砂よりもセキを焼き尽くすかのようだった。 「  お、がみさ……オレ……」  へら とした失敗した笑顔で、セキは眦からポトリと涙を零す。  一瞬砂に包まれたそれは、砂上にこらえるかと思わせて、あっと言う間に崩れて消えていく。 「オレ……謝らなきゃ…………ダメで……」  そう言って再び一粒の涙を流すセキを見下ろし、大神は感情を映さない双眸を曇らせたまま押さえつけていた手の力を緩める。  包帯とガーゼに塗れた体を無言のままに見つめ、すべてを悟ってそっとセキの体を引き起こす。 「突然、すまなかったな」 「  っ、う、うぅんっ! オレっ大神さんに会えて……嬉しい…………嬉しい、んだよ……」  項垂れるセキには以前のように弾ける笑顔は上らない。    

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