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落ち穂拾い的な 大神の言葉 36
まるで寒いのだと言わんばかりにセキはブルリと身震いしてから項垂れる。
そうすると包帯で手当てされた項が黒髪の中から晒され、痩せ細ってしまった体をさらに痛々しく見せた。
いつもは迷わず動く大神の指先がそれに向けて差し出され……踏み込めないままに止まる。
「大神さ……ごめ……ごめんなさいっ」
ボロボロと溢れ出した涙を隠すように、大神は体の内に囲い込むようにセキを抱きしめた。
乾いた砂漠の香りに混じって強く薬の臭いと包帯の臭いが鼻をつく。
そしてその間を、馴染んだセキの甘い香りが漂う。
「オレ……………………っ王さまに噛みついちゃって!」
「 っ」
大神が跳ねたのがわかったのか、セキは涙をポロポロと流しながら不思議そうに大神を見上げる。
蒼空を吸い込んで青く輝く瞳の中央に、困惑を隠しきれない険しい男の影がはっきりと映っていた。
「王さまに噛みついたら、王さまの手が二倍くらいに腫れちゃって……っ」
そこまで言ってセキはまた言葉を詰まらせて大粒の涙をこぼし始める。
大神は腕の中の小さな存在が何を言ったのかを繰り返し反芻し、そしてその上で自分の肺を満たすセキの匂いにやっと気づく。
噛まれたなら、匂いはしない。
喘ぐように首を振り、大神はそこで初めて息をするかのように大きく息を吐き出した。
「大神さん? お、怒られるよね? 大神さんが怒られたら、どうしようって、オレっ……ごめ、……」
「どうしてそんなことになったんだ」
尋ねながらも大神にはその答えはどうでも良かった。
それよりも細い首に巻かれた包帯の端を探して解いていくことに夢中で、「舌を噛もうとしたら、王さまが手を突っ込んできた」と言うセキの言葉を危うく聞き逃すところだった。
「……」
セキは自分を見下ろす大神に怯えるように身を縮めて「ごめんなさい」ともう一度謝る。
「だってオレ、大神さん以外に噛まれるくらいなら、死んだ方がいいって思ったから」
セキは包帯を解く大神の手を遮り、自分で白い布を取り払った。
白く滑らかだった肌に幾筋も走る爪の痕と小さな刺し傷。
「すぐに死ぬと言うんじゃあない」
「死ぬ! 例え大神さんの命令でも、絶対にやだ! それだけは、譲らないからね!」
小さな子どものように頬を膨らまして抗議する姿に、大神は深いため息を吐いた。
実際には本人ではなかったとはいえ、悪夢のような日々が脳裏によぎり……眉間にさらに深く皺を寄せる。
苦痛を堪えるかの様子に、セキは慌てて「ごめんなさい」を繰り返してしょんぼりと肩を落とす。
「……そうだな。お前ならそうするだろう」
指の背で頬を撫で、風にかき混ぜられている髪を払う。
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